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飲食業界におけるHACCP(危害要因分析重要管理点)とは?

飲食の分野におけるHACCP(危害要因分析重要管理点)(はせっぷ、Hazard Analysis and Critical Control Points、Analyse des risques et maitrise des points critiques)は、食品の製造・加工・提供における衛生管理の手法の一つであり、食中毒や異物混入などの危害を未然に防止するために、製造工程上の重要な管理ポイントを特定し、継続的に監視・記録する仕組みです。

この方式は、元々はアメリカで宇宙食の安全性を確保するために開発されたシステムであり、現在では世界中の食品産業で導入されています。日本においても、2021年6月より食品等事業者に対してHACCPに沿った衛生管理が原則義務化され、飲食店もこの対象となりました。

HACCPの基本的な考え方は、「製造後の検査で不良品を排除する」のではなく、「危害要因を予測し、製造過程の中でコントロールする」ことにあります。これにより、食品事故のリスクを事前に抑えることができ、安全性と信頼性の高い食品提供が可能となります。

飲食店では、仕入れ・保存・調理・提供といった一連の作業の中で、食材の温度管理、加熱の中心温度確認、交差汚染防止などが管理項目となり、それぞれに基準値を設け、記録し、問題があればすぐに対処できる体制を構築します。

また、HACCPは単なる衛生チェックリストとは異なり、各店舗の営業形態やメニュー、規模などに応じてカスタマイズされるべき仕組みです。したがって、正しい理解と運用が求められ、従業員教育やマニュアル整備が重要なポイントとなります。

HACCP(危害要因分析重要管理点)は、衛生管理の国際的な基準として位置づけられており、飲食業界においては安全性・信頼性の象徴となるとともに、事業者の社会的責任を果たすための重要な仕組みでもあります。



HACCPの歴史と国際的な展開

HACCPの起源は1960年代初頭、アメリカの宇宙開発計画「アポロ計画」にあります。NASAが宇宙飛行士に提供する宇宙食の安全性を確保するため、食品製造会社ピルズベリー社と共同で開発したのがこのシステムの原型です。

従来の「完成品の検査」ではなく、「製造プロセスを徹底的に管理する」ことが、食品の安全性を確保するうえで最も効果的であるとの発想から誕生しました。

その後、HACCPは1970年代にアメリカ食品医薬品局(FDA)やアメリカ農務省(USDA)によって公式に導入され、1980年代には世界保健機関(WHO)および国連食糧農業機関(FAO)により国際的な食品衛生基準として認められました。

現在ではEU諸国やアジア各国でも法制化が進み、HACCPは食品安全管理の世界標準として定着しています。特に輸出入に関わる食品事業者にとっては、HACCPの取得は必須条件となることも多く、グローバルな食品ビジネスにおいて重要な信頼指標とされています。

日本でも、厚生労働省が食品衛生法を改正し、2021年6月からは原則すべての食品等事業者にHACCP導入が義務化されました。これにより、飲食店・惣菜店・宿泊施設なども例外ではなく、衛生管理の高度化が求められています。



HACCPの構成要素と飲食店での運用方法

HACCPは7原則12手順から構成されており、以下の流れで運用が行われます:

  1. チームの編成
  2. 製品の特徴の確認
  3. 製造工程一覧図の作成
  4. 工程図の現場確認
  5. 危害要因の分析(原則1)
  6. 重要管理点(CCP)の決定(原則2)
  7. 管理基準(CL)の設定(原則3)
  8. モニタリング方法の設定(原則4)
  9. 改善措置の設定(原則5)
  10. 検証方法の設定(原則6)
  11. 記録の作成と保存(原則7)
  12. 見直しの実施

飲食店において、HACCPを実施する際には、まずどの工程にどのようなリスクがあるかを洗い出し、その中で特に重要な工程(加熱、冷蔵、交差汚染など)を特定して、監視と記録を行います。

たとえば、鶏肉を使った料理であれば、「中心温度75℃で1分以上の加熱」が重要管理点(CCP)となり、温度計での確認と記録が義務となります。

また、冷蔵庫の温度チェック、従業員の手洗い状況、まな板の使用分けなど、日常の衛生管理もHACCPに基づく項目として管理されることになります。

HACCPに沿った衛生管理は、決して「一度導入すれば終わり」ではなく、定期的な見直しや改善が必要な「生きた仕組み」です。店舗運営者やスタッフが全員で関与し、共通の衛生意識を持つことが成功のカギとなります。



HACCP導入のメリットと課題

HACCPの導入には多くのメリットがあります。第一に、食中毒や異物混入などの事故リスクを低減できること、そして顧客からの信頼性が向上することが挙げられます。

また、記録を残すことでトラブル発生時の原因追及がしやすくなり、クレーム対応や再発防止にもつながります。さらに、スタッフの衛生意識向上や、業務の標準化といった副次的効果も得られます。

一方で、導入に際しては人材育成・教育日々の記録管理などの工数がかかるため、小規模店舗では「負担が大きい」と感じる場合もあります。

そのため、厚生労働省や各自治体では「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」として、簡易型の導入支援マニュアルを提供し、小規模事業者にも対応できるような仕組みを整備しています。

また、最近ではHACCP管理を効率化するためのデジタルアプリやクラウド記録ツールも登場しており、導入ハードルを下げる取り組みも進んでいます。



まとめ

HACCP(危害要因分析重要管理点)は、飲食業界における食品衛生の新たなスタンダードとして、すべての飲食事業者が取り組むべき重要な仕組みです。

単なる衛生チェックではなく、リスクの予測と管理を通じて安全な食品提供を実現するこの仕組みは、顧客の信頼を獲得し、持続可能な店舗経営の基盤にもなります。

導入には一定の準備と継続的な運用が求められますが、社会全体の食の安全を支えるという視点から見れば、非常に意義深い取り組みといえるでしょう。今後もHACCPの実践を通じて、飲食店がより安心で衛生的なサービスを提供することが期待されます。

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