アパレル業界におけるラフ仕上げとは?
アパレル業界の分野におけるラフ仕上げ(らふしあげ、Rough Finish、Finition brute)とは、製品の完成度を意図的に整えすぎず、あえて未完成感や粗さを残した仕立てや縫製手法を指します。糸の始末を省略したり、裁ち切りのまま仕上げたりといった手法が用いられ、無骨でナチュラルな印象を演出します。デザインの一部として個性を表現する目的で採用されることが多く、ストリートやモード、アーティザナル系ブランドにおいて特に顕著です。伝統的な“完成美”とは異なる現代的な価値観を表現する仕上げ方法として注目されています。
ラフ仕上げの定義と特徴
ラフ仕上げとは、衣服やアクセサリーの製作において、端の処理やステッチの仕上げを意図的に省略、または粗く見せることで、ナチュラルまたはアーティスティックな印象を与える技法です。通常の仕上げでは、縫い代を包んだり折り伏せたりしてきれいにまとめるところを、あえて裁ち切りの状態で残したり、わざと糸が見えるように縫製したりすることが一般的です。
このような仕上げは、ヴィンテージ感やハンドメイドのような温かみ、または無骨さを演出するために用いられ、服そのものの“完成度”よりも、雰囲気や表情のある見た目を重視するデザイン方針の一環として採用されます。
言葉の由来と歴史的背景
「ラフ仕上げ」は、英語の “rough”(粗い、ざらざらした)と “finish”(仕上げ)を組み合わせた表現で、日本独自のアパレル用語として定着しています。フランス語では「finition brute(フィニション・ブリュット)」と訳され、同様の概念で用いられます。
その源流は、1970年代以降の反既製服・反完璧主義を掲げたパンクファッションやアヴァンギャルドなモード系デザイナーたちの動きに見ることができます。代表的な例としては、ヴィヴィアン・ウエストウッドやマルタン・マルジェラなどが、未完成をあえてデザインとして採り入れる姿勢を打ち出しました。そこから派生し、完成されすぎていないからこその“味”を楽しむ価値観が広まりました。
現代の使われ方とバリエーション
現在では、ラフ仕上げはさまざまなブランドやカテゴリーで採用されており、特にストリート系、モード系、ナチュラル系など、感性や表現に重点を置いたジャンルでよく見られます。ラフなカットオフデニム、断ち切りの裾をそのまま活かしたスウェット、未処理風のステッチなどがその一例です。
また、ラフ仕上げは量産向きではない反面、一点ものの個性や、クラフト感を重視するブランド戦略にも適しています。最近では工業的に“ラフに見せる”技術も進化しており、意図的に摩耗感を演出したり、洗い加工で自然な風合いを出す技術も活用されています。
一方で、品質や耐久性が求められるビジネスウェアやフォーマル服ではあまり使用されず、ファッションの自由度が高い分野でこそ生きる表現技法となっています。
まとめ
ラフ仕上げは、整えすぎないことで生まれる個性や表情を大切にする現代的な仕上げ方法のひとつです。パンクやモードといった前衛的なスタイルに始まり、現在ではナチュラル系やストリート系など幅広い分野で採用されています。意図的な“粗さ”の中に潜むデザイン性を楽しむ、新しい価値観を象徴する表現方法です。