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美術におけるケルト美術とは?

美術の分野におけるケルト美術(けるとびじゅつ、Celtic Art、Art celtique)は、主に鉄器時代から中世にかけてヨーロッパのケルト系民族によって生み出された装飾芸術を指します。幾何学模様や動植物のモチーフ、螺旋や編み目などを特徴とし、宗教的・儀礼的な目的で広く用いられました。



ケルト美術の歴史と背景

ケルト美術は、紀元前8世紀頃にヨーロッパ中部で興隆したハルシュタット文化およびラ・テーヌ文化にその起源を持ちます。これらの文化圏で作られた金属器、装身具、陶器には、当時のケルト民族の独自の精神性や装飾感覚が色濃く反映されています。

特にラ・テーヌ様式は、滑らかな曲線や対称的なモチーフを特徴とし、後世のケルト美術の原型を築きました。ケルト民族が各地に拡がるにつれて、この様式もイギリス諸島やフランス、スペインなど広い地域に伝播し、地域ごとに独自の展開を見せるようになります。

やがてローマ帝国の拡大とともにケルト文化は圧迫されましたが、アイルランドやスコットランドなどの辺境地域ではケルトの伝統が受け継がれ、キリスト教の伝来後には修道院を中心とした写本芸術などにその意匠が融合されました。



ケルト美術の特徴と象徴性

ケルト美術の最も際立った特徴は、抽象的なパターン複雑な編み込み模様にあります。これらは単なる装飾ではなく、精神的・宗教的意味を内包していると考えられています。

例えば、螺旋模様は生命や再生の象徴とされ、円形や三つ巴模様は自然界の調和やサイクルを表しているとされます。特定の動物(犬、馬、鳥など)や植物(ブドウ、ツタ)も繰り返し描かれ、それぞれに象徴的な意味が込められていました。

また、金細工やブローチ、剣の鞘などの日用品や武具にもこれらのモチーフが豊富に用いられ、当時の人々にとって芸術と実用品の境界は曖昧であったことがうかがえます。中世に入ると、これらのモチーフは写本装飾、石碑、十字架、聖具などに応用され、宗教的美術としての地位を確立しました。



現代におけるケルト美術の意義

現代において、ケルト美術は民族的アイデンティティの象徴として再評価されています。特にアイルランドやスコットランドでは、伝統的な意匠がポスター、ジュエリー、タトゥー、衣服などに取り入れられ、日常的に目にする機会が増えています。

また、ケルト模様は新たなアートのインスピレーション源として世界中のアーティストに影響を与えています。ケルト的な装飾性や精神性は、ポストモダン美術やファンタジー文化とも親和性が高く、ゲーム、映画、書籍などのビジュアルにもたびたび登場します。

このように、古代から受け継がれたケルト美術のモチーフや象徴は、現代でも芸術的表現の源として生き続けており、過去と現在をつなぐ文化的架け橋となっています。



ケルト美術と写本装飾

中世のアイルランドやブリテン諸島では、キリスト教文化と融合した写本装飾が発展し、ケルト美術はその中核をなしました。

代表的なものに『ケルズの書』や『リンディスファーンの福音書』などがあり、精緻な編み目模様、動植物の装飾、幻獣などが各ページに施されています。これらの写本は、修道士たちが信仰と芸術の精神を込めて制作したもので、ケルト美術の装飾的伝統が文字や図像の形で融合した典型例です。

この時期の作品群は「ヒベルノ・サクソン様式」とも呼ばれ、装飾文字(イニシャル)の中に複雑なモチーフを織り込むなど、ケルト独特の意匠が随所にみられます。写本というメディアを通じて、ケルト美術は宗教的伝達と視覚芸術の両面から影響を与え続けました。



まとめ

ケルト美術は、古代ヨーロッパのケルト民族の精神性と美意識を色濃く反映した装飾芸術であり、その象徴性豊かな意匠は現代にも受け継がれています。

歴史的な背景を持ちながらも、今日においても人々の心に訴えかける普遍的な力を持つ美術様式として、ケルト美術は今なお注目されています。


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