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美術におけるコンストラクティヴィズムとは?

美術の分野におけるコンストラクティヴィズム(こんすとらくてぃゔぃずむ、Constructivism、Constructivisme)は、20世紀初頭のロシアで誕生した前衛芸術運動であり、構成性・機能性・集団性を重視した芸術のあり方を追求しました。絵画や彫刻にとどまらず、建築、デザイン、舞台美術、タイポグラフィなど広範な分野に影響を与え、社会との関係を重視する実践的芸術思想として今なお評価されています。



成立とロシア革命との関係

コンストラクティヴィズムは、1910年代末から1920年代初頭にかけて、ロシアの芸術家たちによって形成されました。その思想的な背景には、1917年のロシア革命によって社会体制が大きく変化し、芸術が大衆のためのもの、あるいは社会構築に役立つものであるべきだという理念が強く求められた時代状況があります。

これまでの芸術の主流であった象徴主義や感情的表現を否定し、幾何学的形態、構造、素材、技術といった客観的・合理的な要素を重視した作品が生み出されました。特にタトリン(Vladimir Tatlin)やロトチェンコ(Alexander Rodchenko)、エル・リシツキー(El Lissitzky)らが中心的な役割を果たし、美術を日常生活に結びつけようとする動きが強まりました。

この運動は、芸術を「作る」こと(construct)を強調するという意味で命名され、彫刻や絵画よりも、設計・構築・製造に近い表現を志向しました。芸術の脱神秘化、非個人的な造形の追求という姿勢が貫かれています。



表現の特徴と技法の革新

コンストラクティヴィズムの最大の特徴は、純粋な形態と素材の探求にあります。幾何学的図形、グリッド構成、直線や円弧、反復性、対称性などが多用され、表現においては装飾や物語性を排除した構造的秩序と明快さが重視されました。

素材としては、金属、木材、ガラス、プラスチック、紙などの工業的素材が用いられ、素材そのものの物理的特性を活かした構成が行われました。また、色彩は原色やモノクロームに近いシンプルな配色が好まれ、装飾性よりも機能的・建設的な性格が前面に出ます。

さらに、実際に「造ること」が強調されることから、模型、建築設計、立体構造物、写真コラージュ、ポスターといった多様なメディアで作品が展開されました。これは、芸術と技術の融合、アーティストと労働者の役割の接近といった当時の社会理想とも強く結びついています。



思想的展開と他ジャンルへの影響

コンストラクティヴィズムは、芸術を通して社会を変革しようという思想を内包しており、芸術=社会的実践という立場を明確に打ち出しました。そのため、純粋美術のみならず、グラフィックデザイン、舞台芸術、建築、教育、出版など、多様な領域でその考え方が実践されました。

たとえば、エル・リシツキーは、絵画からタイポグラフィ、建築設計まで一貫してコンストラクティヴィズムの理念を適用し、視覚伝達と空間構成の統合を試みました。ロトチェンコは広告や写真にその思想を応用し、モダンデザインの先駆ともなりました。

この運動は、1920年代末にはスターリン体制下での抑圧により一旦終息しますが、ヨーロッパのバウハウスやオランダのデ・スティル運動などとも連動し、モダンデザインの理念形成に多大な影響を与えました。また、戦後のミニマリズムやハイテク建築、インスタレーションアートにもその構造的な発想が受け継がれています。



現代美術への継承と再評価

現代においても、コンストラクティヴィズムの思想と造形原理は、構成性、社会性、技術性という点で多くの作家に参照されています。とりわけ、空間インスタレーションやサウンドアートなどでは、構造的な思考と素材への探求という点で近接する表現が見られます。

また、21世紀の社会課題、たとえば都市空間の再構成、デジタル技術との融合、サステナブルな素材活用などにおいて、構築的・機能的なデザインアプローチが再評価され、コンストラクティヴィズムの実践精神が応用されています。

さらに、グラフィックデザインやUI/UXの分野においても、グリッド設計やタイポグラフィの構造美学は、現代のビジュアルコミュニケーションの礎として生き続けています。



まとめ

コンストラクティヴィズムは、構成と機能、素材と社会性を統合した20世紀の前衛芸術運動であり、美術と社会、芸術と技術の関係性を根本から問い直しました。

その革新性は、モダンデザインや現代美術の思想的基盤として今なお強い影響力を持ち続けています。


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