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美術におけるコンセプトデザインとは?

美術の分野におけるコンセプトデザイン(こんせぷとでざいん、Concept Design、Design conceptuel)は、製品や映像、建築、アート、ゲームなどの制作プロセスにおいて、全体の方向性や世界観、機能、構造を視覚的・論理的に設計する初期段階の創造的活動を指します。単なるビジュアル提案ではなく、作品やプロジェクトの根幹に関わる思考とデザインを結びつける重要な役割を果たします。



コンセプトデザインの成り立ちと背景

コンセプトデザインの概念は、20世紀中盤以降のプロダクトデザインや建築設計において広がりを見せ、後に映画、ゲーム、アニメーション、美術分野に応用されるようになりました。とくに1970年代以降の映像産業では、世界観や設定、空間構成を事前に視覚化する必要性が高まり、コンセプトデザインの専門性が確立されていきました。

背景には、大規模な制作プロジェクトの複雑化、チーム作業の標準化、商業的な統一感の確保といったニーズがありました。そのため、初期段階でのイメージ統合と方向性の共有が不可欠となり、コンセプト=設計思想を視覚と論理で表現する工程が強く求められるようになりました。

この動きはデザイン全体のプロセス思考とも共鳴し、現代では建築、舞台、広告、商品開発など、幅広い領域において応用されています。



役割と設計思想の重要性

コンセプトデザインの中心的な役割は、プロジェクトにおける根本的な問いやテーマを明確にし、それを形あるものへと導くことにあります。つまり、「なぜこれを作るのか」「何を伝えるのか」「どのような体験を与えるのか」といった抽象的な目的を、視覚や空間、機能と結びつけて設計する思考のプロセスが中核となります。

このため、単なるビジュアルイメージの制作にとどまらず、思想・感性・論理の融合が求められ、デザイナーには創造性と同時に、問題解決力や構造的思考も必要とされます。また、制作全体の指針として機能するため、チーム内での方向性共有やコミュニケーションの核にもなります。

特にエンターテインメントや広告の分野では、ユーザー体験やストーリーテリングに直結する設計が求められ、感情や印象、記憶への働きかけも重要な要素となります。



制作工程と表現形式

コンセプトデザインは、アイデアのスケッチやキーワードの選定、リファレンスの収集といったリサーチ段階から始まります。その後、構成図、カラースキーム、マテリアル提案、ビジュアルボードなどが作成され、複数の案を比較しながら徐々に完成イメージが具体化されていきます。

表現手法としては、手描きによるスケッチから、PhotoshopやIllustrator、3DCGソフトを用いたリアルなレンダリング、さらにはVRやARによる空間体験の提案まで、多様なツールと技法の統合的活用が求められます。

また、コンセプトデザインは最終成果物ではなく、あくまで制作の出発点かつ基盤として機能します。そのため、完成された「デザイン」よりも、そこに至るまでの思考や意図が重視され、プロジェクト全体の「軸」として保持され続ける必要があります。



応用領域と現代的意義

コンセプトデザインは、アートとデザイン、産業と創造の間を橋渡しする中間領域に位置しています。たとえば、プロダクトデザインでは使いやすさと理念の両立を、建築では空間性と社会性を、エンタメでは物語性と視覚性の統合を担うなど、多層的な価値の統合設計を担っています。

また、UX(ユーザー体験)やサービスデザインといった近年の潮流においても、体験の設計思想を視覚化する工程として、コンセプトデザインの考え方が応用されています。企業のブランディング、都市計画、展示会設計、教育プログラムなどにも広がりを見せています。

さらに、AIやデジタルツイン、メタバースといった新たなフィールドでは、未体験の空間や機能を概念的に構想・提示する力が一層重要となっており、コンセプトデザインの存在意義は今後も高まると予測されます。



まとめ

コンセプトデザインは、創造の初期段階において思想とビジュアルを結びつけ、制作全体の方向性を定義する設計思考の実践です。

多様な領域を横断し、表現と機能、感性と論理を融合させるこの手法は、現代の創造活動における基盤として、ますます重要な役割を担っていくでしょう。


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