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美術におけるフィキサチーフとは?

美術の分野におけるフィキサチーフ(ふぃきさちーふ、Fixative、Fixatif)は、主に鉛筆やパステルなどの画材による作品表面を保護するために使用される定着液を指します。スプレー状で使用されることが多く、完成した作品のにじみや色落ち、摩擦による劣化を防ぐ役割を担います。



語源と歴史:フィキサチーフの起源をたどる

フィキサチーフという語は、ラテン語の「fixare(固定する)」を語源とし、フランス語「fixatif」から英語「fixative」へと取り入れられました。美術分野においては、18世紀後半から19世紀初頭にかけて、パステルや木炭画の保存技術の一環として使われ始めました。

当初は天然の樹脂や牛乳などを薄めた液体が定着剤として使用されていましたが、近代になるにつれアルコールや合成樹脂を基にしたものが開発され、スプレー式で手軽に塗布できるようになりました。この技術的進歩により、フィキサチーフはアカデミックな美術教育やプロフェッショナルな現場においても広く普及していきました。



技術的特性と使用法:素材を守る科学的工夫

フィキサチーフは、エタノールやイソプロパノールといった揮発性溶剤を基剤に、アクリル樹脂やシェラックなどの定着成分を含んだ溶液で構成されています。スプレーとして塗布されると、溶剤が蒸発し、定着成分が作品表面に薄膜を形成して画材の粉末を固定します。

特に木炭やパステル、コンテなどの粉状画材に対しては、描画面がこすれやすく脆弱であるため、透明な保護層を与えることで保存性が大きく向上します。ただし、過剰な塗布は色彩や質感に影響を与える恐れがあり、使用時には一定の距離を保って少量ずつ重ねるのが基本です。



表現と保存のバランス:作家の選択としてのフィキサチーフ

フィキサチーフの使用は、単なる保護手段にとどまらず、作家の表現意図や作品の完成度にも関わってきます。たとえば、パステル画においては、定着させることで濃淡や重なりが変化することがあり、それを逆手に取って質感の変化を意図的に活用する作例も存在します。

一方で、繊細な風合いを損なう懸念から、フィキサチーフの使用を避ける作家もいます。美術館やアーカイブの現場では、保存と展示の両立を図るために、フィキサチーフを使用するか否か、あるいはどの製品を選ぶかについて慎重に検討されます。



現代における応用と製品の多様化

現代では、用途に応じてさまざまな種類のフィキサチーフが販売されています。速乾性の高いタイプ、臭いを抑えたタイプ、光沢のある仕上がりを生むもの、逆にマットな質感を保持するものなど、作風や環境に応じた選択が可能です。

また、アナログ作品のみならず、印刷物の補強や写真作品の保護、さらには美術教育の現場でのスケッチ保存など、応用範囲も広がっています。特にデリケートな素材を使用する現代美術作品においては、作品の耐久性を担保するための工夫としてフィキサチーフが用いられるケースも多く見られます。



まとめ

フィキサチーフは、美術作品の保存性を高めるために不可欠な技術として、美術の実践と教育の両面で重宝されています。

その使用には作品の特性や作家の意図への配慮が求められますが、適切な方法で使用すれば、作品の魅力を保ちつつ、長期的な保存を実現する心強い手段となります。

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