ビジプリ > 美術用語辞典 > 【フィギュラティブ】

美術におけるフィギュラティブとは?

美術の分野におけるフィギュラティブ(ふぃぎゅらてぃぶ、Figurative、Figuratif)は、人物や動物、物体など現実に存在する形象を視覚的に捉えた具象的な表現様式を指します。抽象美術と対比される概念であり、伝統的絵画から現代アートまで広く使用されています。



言葉の由来と歴史的な展開

フィギュラティブという用語は、ラテン語の「figura(形、姿)」に由来し、「形を伴った、形象的な」という意味合いを持ちます。古典美術においては当然の前提とされていた具象性が、20世紀に入って抽象表現主義やミニマルアートなどが隆盛する中で対義的な意味を持つようになり、この語が強調されるようになりました。

特に1960年代以降の現代美術においては、抽象との対比の中で「フィギュラティブ」という枠組みが再び注目を集めました。社会的、文化的背景を反映する作品において、再び人間像や身体、日常の風景などが表現され、具象の再評価が進みました。



表現の範囲と多様なアプローチ

フィギュラティブ・アートの対象は、人間像をはじめ、動植物、風景、都市空間、静物など非常に幅広く、また技法も油彩、水彩、素描、版画、彫刻と多岐にわたります。重要なのは、その表現が観察可能な世界と何らかの関係性を保っていることです。

完全な写実ではなくても、形態や輪郭、質感を暗示的に表すことで視覚的リアリティを喚起する作品もフィギュラティブとされます。つまり、写実と抽象の中間にあるような曖昧な表現でも、作家の意図が明確に具象性を志向していれば、その枠組みに含まれるのです。



時代ごとの代表的作家と動向

ルネサンス期のレオナルド・ダ・ヴィンチやミケランジェロは、人体表現の探究を通してフィギュラティブ・アートの精緻な到達点を示しました。19世紀にはギュスターヴ・クールベやエドゥアール・マネが写実主義の立場から社会的現実を描き出しました。

20世紀には一時的に抽象表現が台頭するものの、ルシアン・フロイドやフランシス・ベーコンなどの作家が人体の表現を通して感情や存在の不安定さを描き、フィギュラティブの新たな地平を切り拓きました。現代でも、ジャーメイン・メイオやエイミー・シェラルドといったアーティストが、人種やジェンダーの視点からフィギュラティブを再定義し続けています。



現代における意味と再評価の潮流

デジタル技術や概念芸術の進展により、視覚芸術の表現方法が多様化する中でも、フィギュラティブなアプローチは根強く残り、むしろその普遍性が再認識されています。特にポスト・インターネット世代では、身体性や具象性を通して、複雑化する社会との関係性を問い直す表現が注目されています。

また、AIや3D技術による写実表現が登場する一方で、逆に手作業による曖昧さや人間らしさが求められる場面も増えており、技術の進化とともにフィギュラティブの意味は拡張し続けています。



まとめ

「フィギュラティブ」は、現実の形や対象を描写・再現する具象的な表現を指す概念であり、抽象的表現との対比の中でその意味と価値が明確になってきました。

現代においても、身体、風景、感情など多様なモチーフを通して、観る者の認識や感覚に訴えかける重要な手法として位置づけられています。

▶美術用語辞典TOPへ戻る



↑ページの上部へ戻る

ビジプリの印刷商品

ビジプリの関連サービス