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美術におけるフェルトアートとは?

美術の分野におけるフェルトアート(ふぇるとあーと、Felt Art、Art en feutre)は、羊毛や獣毛を絡め合わせて形成された不織布「フェルト」を素材とする造形芸術を指します。柔らかく温かな質感を持つこの素材は、彫刻、インスタレーション、クラフトなど多様な美術表現に用いられ、触覚的な魅力や記憶との結びつきが強調される作品に多く見られます。



素材としてのフェルトの起源と文化的背景

フェルトは古代より存在する繊維素材の一つで、ユーラシアの遊牧民による住居(ゲル)の覆いや衣類、儀礼用具などにも使用されてきました。羊毛を水と熱、圧力で絡ませて成形するというシンプルかつ原始的な製法であるため、その素材には自然性と手作業の原初性が込められています。

20世紀以降、美術の分野においてもこの素材に注目が集まり、とくに1960年代のポストミニマリズムやコンセプチュアルアートの文脈で、素材の象徴性としてフェルトが用いられるようになりました。これにより、フェルトはクラフトの枠を超えた芸術表現の媒体へと進化していきます。



表現技法と造形性の広がり

フェルトアートには、シート状のフェルトを切断・縫合する方法のほか、ニードルフェルト(針で繊維を絡める)やウェットフェルト(湿らせて手で形を整える)といった技法が存在します。これにより、平面から立体、さらには空間的な構成物まで多様な作品展開が可能です。

フェルトは、色の発色が柔らかく、表面に微細な凹凸を持つため、視覚的にも触覚的にも豊かな表現力を持っています。また、その加工のしやすさと素材の軽さから、教育現場や福祉施設などでも感覚教育や癒しの素材として導入されることが多く、芸術と生活をつなぐ橋渡し的な役割も担っています。



代表的な作家と現代における展開

フェルトを使用した芸術表現で広く知られるのは、ドイツのアーティストヨーゼフ・ボイスです。彼はフェルトを「保存と保護の象徴」として使用し、政治性や社会性を伴うインスタレーションを多数発表しました。彼の活動以降、フェルトは単なる素材を超えて、記憶や歴史、治癒といったメタファーを内包するメディアとして認識されるようになります。

また現代では、ファイバーアートの分野で活躍する作家が増加しており、触覚メディアとしての再評価が進んでいます。とくにジェンダーやケア、家庭的労働といったテーマと結びついた表現が多く、社会的・詩的メッセージを織り込む場としての活用も目立っています。



未来の展望とフェルトの可能性

フェルトアートは、素材の温かさや手触りといった感覚的魅力に加え、サステナブル素材としての注目も集めています。再生羊毛や天然染料を用いた制作は、環境負荷の少ない芸術活動の一環として位置づけられつつあり、エコロジカルな創作を志向するアーティストに支持されています。

さらに、ARやVRなどデジタル技術との融合を通じて、実際に触れられないが視覚的に「フェルトらしさ」を体験するメディア作品も生まれており、感覚の拡張や疑似触覚の分野へと広がりを見せています。



まとめ

「フェルトアート」は、柔らかく自然な素材感を活かしながら、身体性や記憶、社会性といった複合的テーマを内包する現代的な芸術表現です。

感覚を重視した造形手法として、今後も教育や医療、サステナブルデザインとの連携を深めながら、より広い領域での展開が期待されます。

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