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美術におけるフォトグラメトリーとは?

美術の分野におけるフォトグラメトリー(ふぉとぐらめとりー、Photogrammetry、Photogrammetrie)は、複数の写真画像から物体や空間の三次元形状を計測・再構成する技術であり、デジタルアートや立体作品、保存修復、アーカイブ制作などにおいて応用される視覚的手法のひとつです。視覚と空間情報の結びつきを活かし、美術の制作・記録・研究に革新をもたらしています。



科学技術から美術領域への応用の広がり

フォトグラメトリーは19世紀後半、測量や地図作成などの地理情報科学の分野で発展しました。航空写真や衛星画像などをもとに立体的な地形を再現する技術として始まりましたが、コンピュータビジョンの進歩とともに、芸術分野にも応用が広がっていきました。

現代では、静物や人物、建築物、遺物などを複数の角度から撮影し、それをもとに三次元モデルを構築することが可能となり、美術館や文化財研究、VRアート制作などで活用されています。視覚的正確性とリアリズムを両立できる点で、高い資料性と表現力を持つ技術として注目されています。

このように、技術の出自は科学でありながら、現在ではアーティストが創作や保存の一環として積極的に取り入れる美術的手法となっています。



手法とプロセス:写真から立体へ

フォトグラメトリーの基本原理は、複数の写真画像間における対応点(同一の特徴)を計算し、物体の三次元形状とカメラ位置を復元するというものです。専用ソフトウェアにより、画像の重なりや奥行きの差異が解析され、点群データ(point cloud)として形状が構築されます。

その後、メッシュ化・テクスチャマッピングを経て、視覚的に滑らかな三次元オブジェクトが生成されます。この一連の工程により、物理的に触れることができない対象物も、デジタル上で再構築・観察・改変することが可能となるのです。

簡易なアプリケーションも登場しており、美術教育や個人制作の場でも活用しやすくなっており、身近な立体再現手段として普及が進んでいます。



美術制作・保存・展示における多様な活用例

美術の現場では、フォトグラメトリーは造形作品の記録や複製、インスタレーションの構成、さらにはアーカイブ化にも利用されています。たとえば、立体彫刻の表面状態を忠実に記録し、3Dプリントによって忠実な複製を制作したり、展覧会用の仮想展示空間を構築したりすることが可能です。

さらに、文化財のデジタル保存においては、破損や劣化に対する保全手段として有効であり、災害時や移動展示の際にも損失を回避する手段として活用されています。デジタルアートとの親和性も高く、ゲームアートやVRパフォーマンスなどにおいても使用例が増えています。

このように、技術的な精度と芸術的な応用の両面から、美術とフォトグラメトリーの関係性はますます深まっています。



現代アートにおける意味と展望

フォトグラメトリーは、単なる計測・再現の手段ではなく、現代アートの中で「物質とデジタルの関係」を問い直す手法としても活用されています。たとえば、撮影データの再構成によって、実物とは異なる質感や空間を演出する作品も登場しており、リアリズムと仮想性の境界をあえて曖昧にする表現が見られます。

また、AIとの連携によって、撮影対象の拡張・変形・再生成が可能となり、視覚芸術の創造プロセスそのものを変容させつつあります。空間認識と記録を再編集する行為として、フォトグラメトリーは彫刻や写真、建築、映像といった複数ジャンルを横断する新たな美術言語となりつつあります。

今後も技術進化とともに、より複雑かつ詩的な表現が可能となることが期待され、美術表現における物体性と仮想性の交錯点として、その意義は広がり続けるでしょう。



まとめ

フォトグラメトリーは、視覚情報から立体的な造形を生み出す技術であり、美術制作・記録・保存の現場に多大な影響を与えています。

その応用は単なる再現を超え、表現の新たな形を探求する手段として、物理と仮想、記録と創造を橋渡しする革新的な技法として今後も注目を集めていくでしょう。

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