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美術におけるブリコラージュとは?

美術の分野におけるブリコラージュ(ぶりこらーじゅ、Bricolage、Bricolage)は、本来の用途や意味とは異なる既製の素材・廃材・日用品などを再利用・再構成することで、新たな意味や美的価値を創出する表現手法です。即興的かつ実験的な側面を持ち、構成主義やシュルレアリスム、現代アートにおいて広く応用されてきた概念です。



人類学的概念から美術用語への展開

ブリコラージュという言葉は、もともとフランス語で「寄せ集め」や「器用仕事」を意味し、文化人類学者クロード・レヴィ=ストロースによって理論化されました。彼は、『野生の思考』(1962年)において、既存の素材や道具を用いて創造的に問題解決する行為を「ブリコラージュ」と定義し、西洋の体系的知識と対比される思考様式として注目しました。

この概念はやがて美術分野にも応用され、理論的な一貫性よりも現場的・実践的な創造を肯定する方法論として、シュルレアリスムのオブジェ制作やネオ・ダダ、アッサンブラージュなどに影響を与えるようになりました。制度外からの創造を象徴する概念として、美術において独自の展開を遂げてきたのです。



技法と素材の特性:偶然性と即興性

ブリコラージュは、既製品や廃材、新聞、写真、布、木片、金属など、多種多様な素材をそのまま、または一部加工して作品に組み込む技法です。作品制作のプロセスは、素材そのものがもつ質感や形状を手がかりに進行し、完成形があらかじめ定まっていない即興的な性質を持ちます。

このため、完成作品には偶発性や実験性、未完成性が色濃く反映されます。素材の持つ記憶や社会的背景、過去の用途が作品内で新たな意味を獲得し、観る者に多層的な解釈を促す点が特徴です。

とくにアッサンブラージュ(立体的コラージュ)との親和性が高く、現代アートやインスタレーション、エコアートにおいても頻繁に用いられる表現形式です。



代表的作家と作品に見る実践例

ブリコラージュを実践した代表的な作家には、ジャン・デュビュッフェ、ロベール・ラウシェンバーグ、ジョセフ・コーネル、ナム・ジュン・パイクなどが挙げられます。彼らはいずれも、商業品や日用品、機械部品などを作品の一部として組み込むことで、日常と芸術の境界を攪乱しました。

たとえば、ラウシェンバーグの「コンバイン・ペインティング」では、絵画と彫刻、既製品が融合し、視覚的にも概念的にも「混成された世界」が提示されました。また、近年ではグローバル資本主義や環境問題への批評を込めたブリコラージュ的作品も多く、社会的アクチュアリティを伴う表現として注目されています。

ストリートアートやDIYカルチャーにも通じる柔軟な表現として、ジャンルを越えて展開されています。



現代美術における思想的意義と展望

ブリコラージュは、現代において「既存の価値や制度に依存しない創造」の象徴的手法とされています。作者の主体性や一貫したコンセプトを必ずしも前提とせず、素材や文脈との関係性から生まれる意味を重視する点において、ポストモダン的な思考と深く結びついています。

また、サステナブルな価値観の拡がりとともに、廃材の再利用やアップサイクルとの親和性が注目され、環境への配慮を含んだ制作スタイルとして再評価されています。多文化的・脱中心的な視点から、多様な「ものの使い方」を提示する点も重要です。

今後も、生成AIやプログラミングなど非伝統的素材との融合を通じて、現代的ブリコラージュはさらに複雑で豊かな様相を呈することが予想されます。



まとめ

ブリコラージュは、既製の素材を再構成することで新たな意味や美を生み出す表現手法であり、偶発性・即興性・多義性を特徴とします。

制度やジャンルにとらわれず、自由で批評的な創造を可能にする方法論として、現代美術における思想的・表現的な意義を持ち続けています。



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