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美術におけるフレーミングとは?

美術の分野におけるフレーミング(ふれーみんぐ、Framing、Encadrement)は、視覚表現における「枠」や「構図の区切り」を指す概念であり、作品内で何を見せ、何を隠すかという選択を通じて、意味や印象、鑑賞者との関係性を操作する技法です。額縁や画面の縁取りにとどまらず、空間構成や視点誘導、心理的印象の構築など多様な文脈で用いられます。



フレーミングの基本的な意味と歴史的役割

フレーミングは、もともと絵画や写真において「画面を構成するための枠取り」や「額装」の意味で用いられてきました。ルネサンス期には遠近法と連動し、額縁そのものが窓のような視覚構造を形成することで、鑑賞者に視線の入口を提供していました。

同時に、構図の中で何を画面内に収め、どこを切り取るかという選択もまたフレーミングの一環であり、視覚のコントロールという点で極めて重要です。バロックやロマン主義絵画では、劇的な演出を強調するために斜め構図やトリミングが用いられ、印象派以降ではフレームの外側を想像させる構成が頻繁に採用されました。

このように、フレーミングは単なる装飾ではなく、作品の意味を構成する根本的な視覚的装置として発展してきました。



用語の語源と展開

「フレーミング(Framing)」は英語で「枠をつける」「囲む」を意味し、仏語では「Encadrement」と表現されます。写真、映像、建築、舞台芸術、メディア研究においても広く用いられる概念で、見ることの枠組みを規定する操作として扱われます。

美術では、作品内部の構図だけでなく、展示空間やインスタレーションの設計、さらには鑑賞者の立ち位置や動線までも「フレーミング」として意識されるようになりました。特に現代アートでは、物理的な額縁を排除した上で、見えない枠組みとしてのフレーム(思考・視点の限定)が問い直される傾向にあります。

また、メディア論や記号論の分野では、フレーミングは「情報をどう枠づけ、意味づけるか」という観点から分析され、美術と社会的文脈の交差点におけるキーワードとしても機能します。



代表的な使用例と作家の実践

フレーミングを意識的に扱った美術作家には、エドガー・ドガ、デイヴィッド・ホックニー、ダン・グレアム、ルイーズ・ローラーなどが挙げられます。ドガは切り取られた構図と舞台のような空間演出によって、画面の「外」を想起させる視点を創出しました。

ホックニーは複数視点から構成された写真コラージュで、見ることの時間性と枠組みを再構築しています。ダン・グレアムは鏡やガラスを用いて観る者と作品、空間を交差させる展示構成を展開し、ローラーは額縁そのものや展示空間の撮影によって「見る行為のフレーミング」を批評的に表現しました。

このように、フレーミングは作品構造の視覚的要素であると同時に、知覚の設計として作家の思考を反映する表現手段でもあります。



現代における応用と拡張的解釈

現代のフレーミングは、物理的な「額縁」や「画面構成」にとどまらず、メディア・コンテクスト・社会的視点を含めた広義の「枠組み」として捉えられます。たとえばSNSにおける投稿画像の構図や、美術館での展示順序、観客の身体的導線までもが作品の一部として構築される場合があります。

また、AR/VR作品やインタラクティブ・アートにおいては、鑑賞者の動作や視線の方向がフレームを形成する要因となり、動的・可変的なフレーミングが可能になります。こうした表現では、従来の枠を超えて「見る/見られる」という行為そのものが作品の核となり得ます。

このようにフレーミングは、アートを「どう見るか」「どう構成するか」という視覚と認識の根幹に関わる技法・思想として、今後も多角的に発展し続けると考えられます。



まとめ

フレーミングは、美術作品における視覚的枠取りであると同時に、意味の構築、視線の誘導、空間の設計を含む多層的な表現要素です。

その操作によって作品と鑑賞者の関係は動的に変化し、現代美術においては情報、身体、空間を巻き込む「見るという体験」の総体として、極めて重要な意味を持つ技法であり概念です。

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