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美術におけるペルシャ美術とは?

美術の分野におけるペルシャ美術(ぺるしゃびじゅつ、Persian Art、Art perse)は、古代ペルシャから近代に至るまでのイラン地域における視覚芸術の総体を指します。壮麗な装飾性、繊細な細密画、洗練された建築美を特徴とし、イスラーム美術をはじめとする周辺文化圏にも大きな影響を与えてきました。



古代からイスラーム時代へと続く長い歴史

ペルシャ美術の源流は、紀元前6世紀のアケメネス朝にまで遡り、ペルセポリス遺跡に代表される石造建築や浮彫彫刻がその初期の姿を伝えています。続くサーサーン朝では、宮殿装飾や金属工芸が発展し、東西交易の中心地として多様な文化要素が混淆する独自の美術が育まれました。

7世紀以降のイスラーム化に伴い、宗教的な図像規制を背景に、幾何学模様、植物文様、書法(カリグラフィー)などの抽象的装飾が美術表現の中心を担うようになります。この時代、ペルシャはイスラーム世界における美術の先進地域と見なされ、多くの王朝が芸術保護を政策として掲げました。



用語の由来と文化的特異性

「ペルシャ」は、古代ギリシア語でイラン高原の一部を指す“Persis”に由来し、近代以前のイラン文化全般を表す用語として広く使われてきました。フランス語では“Art perse”と呼ばれ、その文化的多層性が評価されています。

この美術の特異性は、詩性と装飾性の融合にあり、文学、建築、絨毯、陶器、金属器、書物装飾など、ジャンルを超えて一貫した美意識が流れています。とりわけペルシャ語詩との密接な関係が、美術作品に象徴的・寓意的な深みを与えています。



代表的な形式と芸術家の系譜

ペルシャ美術を代表する形式には、細密画(ミニアチュール)、イスラーム建築、ペルシャ絨毯などが挙げられます。細密画では、14?16世紀のティムール朝やサファヴィー朝時代に黄金期を迎え、《シャー・ナーメ》などの叙事詩を彩る絵画が盛んに制作されました。

また、イスファハーンを中心とした都市建築では、青色タイルを用いた壮麗なモスクが数多く築かれ、光と色の建築と称される独自の美学が形成されました。職人の名が記録に残ることは少ないものの、無名の手によって生み出された造形は、集団的・伝統的な価値観に根ざしています。



現代における評価と国際的影響

今日、ペルシャ美術は世界の美術館や大学で研究・展示される対象となっており、イスラーム文化の美的精髄として国際的にも高く評価されています。とくにペルシャ絨毯やカリグラフィーは、装飾芸術としての完成度が高く、工芸と芸術の境界を超える存在とされています。

また、現代イランのアーティストたちは、伝統文様や古典文学のモチーフを現代アートの文脈で再構成し、グローバルな芸術シーンで活躍しています。文化の継承と革新が同時に進行する中で、ペルシャ美術は静謐さと力強さを併せ持つ独自の表現として、今も多くの人々を魅了し続けています。



まとめ

ペルシャ美術は、古代から現代まで連綿と続く歴史と精神性を備えた芸術体系であり、詩と装飾、構造と象徴の融合によって生まれた視覚文化の結晶です。

その多彩なジャンルと豊かな表現は、東西の芸術に大きな影響を与え続けており、今後も伝統と現代性の交差点として美術の探求に貢献していくでしょう。

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