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美術におけるマテリアリズムとアートとは?

美術の分野におけるマテリアリズムとアート(まてりありずむとあーと、Materialism and Art、Materialisme et Art)は、物質そのものの存在感や性質に着目し、素材のリアリティを重視する視点から生まれる芸術表現を指します。哲学的な唯物論の影響も受けながら、素材自体を主体としたアプローチが、美術の中で新たな価値観を形成してきました。



マテリアリズムとアートの起源と思想的背景

マテリアリズムとアートの根源には、哲学的な唯物論の影響があります。特に18世紀から19世紀にかけて、自然科学の発展とともに物質世界への関心が高まり、精神や理念よりも現実の物質に基づく認識が重視されるようになりました。美術においても、この流れを受けて素材そのものへの意識が強まっていきます。

20世紀初頭のキュビスムや未来派では、現実世界の構成要素を視覚的に解体・再構成する試みが行われ、物質感の表現が重要なテーマとなりました。その後のダダイズムや構成主義、さらにはポストミニマリズムに至るまで、素材への探究心はさまざまな形で展開されています。

この思想的背景により、アートは単なる視覚的イリュージョンを超え、物質の実在性を前提とした新たな表現領域を切り開くことになりました。



マテリアリズムに基づく表現手法と特徴

マテリアリズムに基づくアートでは、使用される素材自体が表現の中核を担います。石、木、鉄、ガラス、布、土など自然素材の質感や重さ、硬さ、あるいは人工素材の冷たさや工業的美しさが、そのまま作品の意味や印象を決定づけます。

制作過程でも、素材に忠実な操作が重視され、無理に形を変えたり加工を隠すのではなく、素材の特性を尊重するアプローチが取られます。たとえば、鉄の錆びや木材の割れ、布のたわみといった自然現象さえも表現の一部として受け入れる姿勢が特徴です。

また、素材の選択が作品テーマと直結する場合も多く、環境問題や社会批評を内包する作品も少なくありません。



代表的な作家と作品例

マテリアリズムの影響を色濃く受けた作家には、リチャード・セラ、エヴァ・ヘス、アニッシュ・カプーアなどが挙げられます。セラは巨大な鉄板を用いた彫刻で、素材の質量感と空間の緊張感を表現しました。

エヴァ・ヘスは、ラテックスや繊維といった非伝統的素材を使い、素材の脆さや経年変化までも含めた作品世界を構築しました。カプーアは、顔料や大理石、ワックスなど多様な素材を使い、視覚と触覚を同時に刺激する空間体験を創出しています。

これらの作家たちは、素材選択をコンセプトと深く結びつけながら、新しい表現の可能性を切り開いてきました。



現代におけるマテリアリズムとアートの展開

現代において、マテリアリズムの視点はますます重要性を増しています。特に、素材とコンセプトの不可分性が意識される作品が多くなっており、素材の由来や製造過程、環境への影響なども作品のテーマに組み込まれています。

また、サステナブルアートやエコアートといった新しい潮流とも接続し、リサイクル素材や自然素材を使用した作品が増加しています。これにより、単なる視覚的表現を超え、社会的・倫理的な問題意識を内包するアートが生まれているのです。

マテリアリズムに基づく表現は、今後も技術革新とともに新たな素材を取り入れながら、より広範な表現領域へと展開していくでしょう。



まとめ

マテリアリズムとアートは、素材そのものの存在感を尊重し、それを基盤とした表現を通じて、現代美術に新たな視点をもたらしています。

視覚、触覚、概念を融合させるこのアプローチは、未来に向けてもなお重要な芸術的探究の領域であり続けるでしょう。

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