【レディメイドとは？】ビジプリ美術用語辞典

美術におけるレディメイドとは？

美術の分野におけるレディメイド（れでぃめいど、Readymade）は、日常的な既製品をそのままアート作品として提示する美術の手法です。この概念は、20世紀初頭のダダイスム運動から発展し、特にフランスの芸術家マルセル・デュシャンによって広まりました。レディメイドは、既存のオブジェクトを選び、それに新たな文脈や意味を与えることで、アートの定義や価値観に挑戦する方法です。

レディメイドの起源と背景

レディメイドという手法は、マルセル・デュシャンによって1913年に初めて広く認識されました。デュシャンは、既製品をそのままアートとして提示することを提案し、その中でも最も有名な作品「泉」（1917年）で、普通の男性用便器を「芸術作品」として展示しました。この作品は、美術の枠を超え、アートの定義そのものに疑問を投げかけるもので、アート界に大きな衝撃を与えました。

レディメイドの重要な側面は、アーティストが物体の選択とその配置、そしてそのオブジェクトが持つ新しい意味を考慮するという点にあります。これにより、アートの制作過程や価値を再考させ、視覚的な美しさだけでなく、コンセプトやアイデア自体がアートの一部となることを示しました。

レディメイドの特徴と意義

レディメイドの主な特徴は、アーティストが既存の物体をそのまま作品として使用する点にあります。これにより、アートは必ずしも手作りである必要がなく、物体そのものがアートとしての価値を持つことになります。具体的には、以下の点が挙げられます：

既製品の使用: レディメイドは、日常生活に存在する物体や既製品を選んで、それをアートとして展示します。これにより、アートの対象は日常的なものとなり、アートの枠が広がります。
コンセプト重視: レディメイドにおいては、物体自体の美しさよりも、その物体を選ぶ理由や新たに与えられた意味が重要視されます。アーティストの意図やアイデアが作品の本質となり、物体に対する新しい視点が提示されます。
アートの定義に対する挑戦: 既製品をアートとして提示することで、アートの範囲や価値を再定義しようとする意図があります。これにより、「芸術とは何か？」という問いを浮き彫りにし、アートの枠組みを破壊しました。
反芸術的要素: レディメイドは、伝統的な美術に対する反発としても機能します。特にダダイズムの運動においては、既存の社会的、政治的構造への挑戦の一環として、この手法が使われました。

このように、レディメイドは単なる物体の選択にとどまらず、その背景にあるアイデアやコンセプトがアートの核となるという、アートの理解を深める重要な手法として位置づけられています。

レディメイドの代表的な作品とアーティスト

レディメイドの最も有名な例は、マルセル・デュシャンの「泉」です。デュシャン以外にも、さまざまなアーティストがレディメイドを活用し、アートの枠組みを広げました。以下はその代表的な作品とアーティストです：

マルセル・デュシャン：「泉」（1917年）: 便器を逆さにして署名し、アートとして展示した作品。これにより、アートの定義が一新され、レディメイドが広く認識されるようになりました。
ロバート・ラウシェンバーグ：「白い絵画」（1951年）: ラウシェンバーグは、「白い絵画」をレディメイドとして展示し、アートの枠を拡大しました。この作品は、既存のものに対する反発と新たな価値観の提示を象徴しています。
ジョン・ケージ: ケージは、音楽やパフォーマンスアートにおいてレディメイド的要素を取り入れ、既存の音や物体を新しい芸術的文脈で再利用する手法を開拓しました。
ダミアン・ハースト：「サメの標本」(1991年): ハーストは、サメの死骸をフォーマルデヒドの中に浮かべ、レディメイド的な手法で芸術作品に仕立てました。これにより、物の使い方とその意味を考え直させました。

これらの作品は、既存の物体に新しい視点を加えることで、視覚芸術の理解を深め、アートにおける「創造性」の定義を再考させるきっかけとなりました。

レディメイドの現代アートにおける影響

レディメイドは、20世紀以降のアートに大きな影響を与えました。特にコンセプチュアルアートやポップアート、ストリートアートなどの分野でその影響が色濃く現れています。

レディメイドが示した「アートとは何か？」という問いは、現代美術においても重要なテーマとなり、多くのアーティストが「アート」の境界を曖昧にするための手段としてレディメイドを取り入れました。アートは単なる視覚的な美しさではなく、アイデアやコンセプト、文脈を含むものであるという視点が強調されています。

また、デジタルアートやインスタレーションアートの分野でも、レディメイド的な手法が使われ、既存のオブジェクトや素材を再利用して新たなアートを生み出す方法が発展しています。現代アートにおけるレディメイドは、芸術の自由度を広げ、アーティストが物質とアイデアの間で創造的な橋渡しをするための重要な手段として活用されています。