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美術における飛白とは?

美術の分野における飛白(ひはく、Feibai、Vol d’encre)は、筆致のかすれや墨のにじみを意図的に活かし、線の中に動きや余白の美を生み出す筆法を指します。書道や水墨画など東アジアの筆による表現において用いられ、動勢や精神性を可視化する技法として高く評価されています。



飛白の起源と歴史的発展

飛白の技法は中国の漢代(紀元前~紀元後)にはすでに存在していたとされ、もとは筆の刷毛が摩耗してかすれる様子を表現として活用したことに始まります。「飛白」は、文字通り「飛ぶような白」すなわち、墨の間に生まれる白い空間が飛ぶように見えることから名付けられました。

この筆法はやがて技巧として意識的に用いられるようになり、王羲之などの古典的書家や、中国絵画の世界でも草書や写意画に取り入れられていきます。日本には奈良時代から平安時代にかけて伝わり、筆勢の美学として和様書道や水墨画の中に定着していきました。

飛白の表現は筆の動きと墨の量、紙の吸水性などが複雑に関与し、偶発性と作意の共存が求められるため、高度な技術と感性が必要とされます。



技法の構造と表現上の特徴

飛白は、毛先が不揃いになった筆や意図的に墨を少なく含ませた筆を用いて、線の中にかすれやにじみを生み出す筆法です。この筆致によって、軽やかで風をはらんだような線が描かれ、単なる形や輪郭を超えて、空間や時間の流れ、作者の精神性までもが表現されます。

書道では、飛白は草書や行書の筆運びの中に自然に現れることもあれば、あえて強調して用いられることもあります。たとえば、文字の線の一部を墨で満たしつつも、一部は紙の白を残すことで、線の中に動きと呼吸を持たせるような表現が可能になります。

絵画、とくに水墨画においては、飛白は山水や草木の描写において風の通り道や大気感を表すためにも使われ、視覚的な写実よりも感覚的・精神的な表現を重視する技法の一つとされます。



語源と美術的意味の広がり

「飛白」の語源は、中国の書法用語に由来し、「飛」は筆の勢い、「白」は筆致により生まれる紙の白い部分を指しています。つまり、力強く動いた筆が紙にかすれを残し、そのかすれの白さが視覚的に飛翔して見えるさまを表現した言葉です。

この技法は単なる偶発的現象ではなく、美的意図に基づく技術として体系化されており、美術における「余白」や「未完の美」の思想と深く結びついています。空間の演出を意識したこの筆法は、日本独自の「間(ま)」の美意識とも共鳴し、装飾性よりも精神性や余情を重んじる日本美術の核となる価値観を支えています。

また、飛白は彫刻や現代美術、書のインスタレーションなどにおいても引用され、墨跡の持つ「動きの痕跡」として再解釈される場面も増えています。



現代美術における応用と再評価

飛白は現代においても多くのアーティストによって重視されており、伝統的な技法としてだけでなく、抽象表現の一手段としても活用されています。墨の流動性や偶然性を活かす現代書や墨象作品では、飛白が感覚のリズムとして構図に深みを与える役割を果たしています。

また、デジタル技術を駆使して飛白の質感を再現する試みも見られ、グラフィックデザインや映像美術においても注目されています。飛白の持つ「空間と動勢の記号性」は、現代の視覚文化においても魅力的な表現手段として機能しています。

近年では、日本文化を象徴する視覚要素の一つとして国際的にも紹介されており、筆の痕跡に込められた精神性が再評価されるなか、伝統と現代の架け橋としてその意義が再認識されています。



まとめ

飛白は、筆墨表現におけるかすれや白の余韻を美とする東アジア特有の技法であり、動き・精神性・空間性を一体化させる重要な表現手段です。

その技術的・美学的意味は書や絵画を超え、現代美術にも通じる表現言語として広がり続けています。

偶然と作意が交差するこの筆法は、今後も日本美術の核心として深く掘り下げられていくことでしょう。

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