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美術における美術の歴史的転回とは?

美術の分野における歴史的転回(びじゅつのれきしてきてんかい、Historical Turn in Art、Tournant historique dans l’art)は、芸術の表現、制作方法、評価基準、社会的機能が、特定の歴史的、政治的、文化的な出来事や思想の変化に対応して転換する現象を指します。美術の歴史的転回は、アートの理解や解釈の枠組みを根本的に再考させ、新たな視点を提供する重要な契機となっています。



美術の歴史的転回とその背景

美術の歴史的転回は、主に西洋美術の歴史において、さまざまな社会的・政治的背景や文化的価値観が影響を与えた時期に見られます。例えば、ルネサンス期の人文主義の台頭により、古典的な模倣から解放され、個人主義や自然主義が重視されました。この転回により、芸術家は単なる職人から「創造的な天才」として認識されるようになり、絵画や彫刻が知識や技術の追求の場となりました。

また、近代に入ると、産業革命や社会構造の変化に伴い、アートの機能が変わり、リアリズムや印象派が登場しました。これらは、現実世界をそのまま反映させるという新たな価値観を持ち、古典的な美術の規範を破り、個々の視点や感覚を強調しました。これにより、美術は「客観的な真実」を描くことから、主観的な感覚や印象を表現する方向へと転回しました。

このような歴史的転回は、美術が社会とどう関わるか、また芸術家とその観客との関係を根本的に変えるものであり、それぞれの時代の価値観を反映した新たな芸術形式を生み出しました。



近代美術における転回:モダニズムと反モダニズム

近代美術における転回は、特に19世紀から20世紀初頭にかけて起こりました。産業革命や都市化、戦争といった大きな社会的・政治的変動を背景に、芸術の形式や役割が根本的に変化しました。モダニズムは、その一環として登場し、伝統的な芸術規範に対する批判と革新を目指しました。

モダニズムは、特に絵画において、従来の遠近法や写実的表現からの解放を追求しました。印象派の技法やキュビスム、抽象芸術などは、現実世界をそのまま反映させることよりも、感覚や心理的な反応を表現することを目的としました。これにより、視覚芸術が持つ「真実の再現」という役割は変容し、芸術が自己表現や形式の探求に焦点を当てる時代が訪れました。

一方で、20世紀中盤以降には、反モダニズムの潮流が現れました。アートは商業主義や制度的規範とどのように向き合うべきかを再考し、アートの価値基準や役割を問い直しました。この反動として、ダダイズムやシュルレアリスム、後にポストモダンアートが登場し、既存の枠組みを批判する作品が多く生まれました。



社会的・政治的転回:アートと社会運動

美術の歴史的転回は、社会的・政治的な状況にも深く影響されています。20世紀中盤以降、アートは単に美的表現にとどまらず、政治的メッセージや社会的運動と密接に結びつくようになりました。特に、フェミニズム運動、アフリカ系アメリカ人の権利運動、LGBTQ+の権利運動などがアートに大きな影響を与え、アートは社会的・政治的課題を表現する重要な手段となりました。

アートは、社会的抑圧に対する抗議や、マイノリティの声を可視化するための手段として機能するようになり、これにより美術の社会的責任が強調されるようになりました。たとえば、1960年代から1970年代のアメリカでは、黒人アーティストたちが人種差別に反対する作品を発表し、社会的な変革を促すアートを作り出しました。

また、フェミニズムアートは、伝統的な女性像や性別に対するステレオタイプを批判し、女性の視点や経験を中心にした作品を多く生み出しました。これにより、アートは単なる美的な活動から、社会的変革をもたらす力を持つものとして再評価されました。



デジタル時代の転回:アートとテクノロジーの融合

21世紀に入ると、デジタル技術の急速な進展が美術のあり方に大きな転回をもたらしました。インターネット、コンピューターグラフィックス、3Dプリント、バーチャルリアル(VR)などの新しい技術は、アートの制作過程や展示方法に革命を起こしました。これにより、芸術作品は物理的な存在にとどまらず、デジタル空間での表現が重要視されるようになりました。

デジタルアート、NFT(ノン・ファンギブル・トークン)アート、バーチャルリアル(VR)アートなどは、作品がインターネットを通じて広く共有されることを可能にし、グローバル化と連携して新しいアート市場を形成しています。これにより、アートは物理的な空間を超えて、デジタル空間での存在や評価を得るようになりました。

この技術的転回は、アートが持つ物理的な境界を超え、新しい形式の表現と解釈を可能にし、芸術とテクノロジーが融合する新たな時代を切り開いています。



まとめ

美術の歴史的転回は、社会的、政治的、技術的な変化とともに、アートの役割や表現形式、価値基準を再構築してきました。

それぞれの転回は、アートが単なる美的な表現を超え、社会的変革を促す力を持つ手段となることを示しており、今後も新たな技術や価値観がアートの転回を引き起こすことでしょう。

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