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美術における美術評論のポストモダン理論とは?

美術の分野における美術評論のポストモダン理論(びじゅつひょうろんのぽすともだんりろん、Postmodern Theory in Art Criticism、Theorie postmoderne dans la critique d’art)は、20世紀後半の美術批評において現れた新たな視点を指し、近代主義的な価値観や絶対的な美的基準を解体し、芸術の意味や価値を多様性や相対性の中で再定義しようとする思想です。ポストモダン理論は、特に視覚文化、ジェンダー、権力、アイデンティティ、メディアなどの社会的・文化的文脈を重視し、美術が抱える多様な意味を探求しました。



ポストモダン理論の基本的な理念と美術批評への影響

ポストモダン理論は、20世紀のモダン主義が提唱した普遍的な美的基準や、芸術が担う「真実の表現」という価値観を批判的に見直すことから始まりました。モダン主義が芸術に理性や秩序、普遍性を求めたのに対し、ポストモダンはそれらを相対化し、異なる視点や多様性を受け入れる態度を取ります。

このアプローチは、フランスの思想家ジャン=フランソワ・リオタールやミシェル・フーコー、ジャック・デリダなどの理論から大きな影響を受け、美術批評においても作品の解釈が一つの固定されたものではなく、観者の立場や社会的・文化的背景によって異なる意味を持つことを強調します。

ポストモダン理論における美術批評は、従来の作品分析の枠組みを解体し、芸術が提示する多義性、矛盾、断絶に注目し、その「不確実さ」や「混沌」を肯定する方向へと向かいました。



主なポストモダン美術批評のアプローチ

ポストモダン美術批評の特徴は、次のようなアプローチに集約されます:



1. 相対主義と多義性の受容

ポストモダン批評では、美術作品が持つ意味は決して一元的ではなく、観る者や文化的文脈に応じて多様に解釈されるべきだとされます。これにより、芸術の「普遍的な価値」や「正しい解釈」という考え方が否定され、代わりに作品が引き起こす無限の解釈可能性に焦点を当てることになります。

例えば、ある作品が持つ社会的メッセージは、時代や文化によって異なる意味を生み出す可能性があり、これを積極的に探ることがポストモダン批評の特徴です。リオタールが提唱した「大きな物語の解体」という概念に基づき、絶対的な美学や価値観を批判し、代わりに複数の視点や解釈を受け入れる柔軟性が強調されます。



2. 視覚文化とメディアの影響

ポストモダン批評では、芸術が単なる「美的な表現」ではなく、現代の視覚文化やメディアと密接に結びついているという視点が重要です。芸術作品がテレビ、広告、映画、ポップカルチャーなどの大衆文化と交錯し、これらの影響を受けて形作られていることが強調されます。

例えば、アンディ・ウォーホルやロイ・リキテンスタインなどのポップアート運動は、大衆文化やメディアを芸術に取り入れることによって、消費社会の批評アイデンティティの構築を試みました。このように、ポストモダン美術批評は、メディアの視覚的言語や消費文化の影響を芸術表現として取り込むことを歓迎します。



3. 権力・ジェンダー・アイデンティティの視点

ポストモダン美術批評は、社会的・政治的な視点を強調し、芸術がどのように権力関係を映し出し、またその中でどのようなジェンダーやアイデンティティが表現されるかに注目します。特に、フェミニズムやポストコロニアル批評など、非西洋的視点やマイノリティの視点から芸術を解釈することが求められます。

美術作品における性差別的表現や人種的偏見、植民地主義の影響などが批判されることが多く、作品の背景にある社会的・歴史的な文脈が重視されます。例えば、フェミニズムアートポストコロニアルアートは、伝統的な美術批評が無視してきた視点や経験を反映する重要な運動として位置づけられています。



ポストモダン美術批評の批判と限界

ポストモダン美術批評は、既存の価値観や基準を解体することによって新たな視点を提供しましたが、その過度な相対主義や不確実性の強調に対しては批判もあります。特に、全ての意味が「相対的」とされることで、作品の価値や芸術の本質的な意義が見失われるという懸念が示されることがあります。

また、ポストモダン批評が芸術作品に対して過度に解釈的・言説的なアプローチを取ることにより、鑑賞者が作品そのものに直接触れることなく、言葉や理論によって過剰に分析されてしまうことが問題視されることもあります。



まとめ

美術評論のポストモダン理論は、芸術の多様性と不確実性を受け入れ、固定された価値観や解釈の枠を超えることを目的とした批評理論です。

そのアプローチは、芸術と社会、文化、メディアとの交差点における新たな意味の探求を促進し、個々の作品に対する多面的な理解を提供しますが、過度の相対主義や解釈の限界については今後も議論の余地があります。

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