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飲食業界におけるアグリツーリズムとは?

飲食の分野におけるアグリツーリズム(あぐりつーりずむ、Agritourism、Agritourisme)は、農業(アグリカルチャー:Agriculture)と観光(ツーリズム:Tourism)を組み合わせた言葉で、農場や農村地域における観光体験を通じて、食や自然、文化を楽しむスタイルのことを指します。特に飲食業界においては、地元の食材を活かした料理体験やファーム・トゥ・テーブル(農場から食卓へ)の実践を伴う飲食サービスが重要な要素となります。

欧州、特にイタリアやフランスで古くから発展してきたこの概念は、単なる観光ではなく、地域の農業や食文化への理解を深め、持続可能なライフスタイルを体験する機会として注目されています。

近年、日本でも農泊(農村民泊)や体験型レストラン、オーガニック食材の魅力を伝える活動として導入され始め、飲食店が生産者と連携してツアーを組んだり、農場内でのレストラン営業を展開したりと、都市と地方をつなぐ食の架け橋としての役割を担っています。

都市部の飲食店でも、アグリツーリズムとの連携を通じて、食材の生産背景をストーリー化し、メニューやサービスに反映させる取り組みが進んでいます。これにより、消費者の「食の安心・安全」への関心や「地域の食材を応援したい」というニーズに応えることが可能となり、飲食業界の新たな価値創出の場となっています。



アグリツーリズムの歴史と発展

アグリツーリズムという概念は、1960年代にイタリアのトスカーナ地方を中心に広まりました。過疎化と農業の衰退が進む中、農村地域に観光客を呼び込むことで農業の新たな収益源を確保し、同時に地域文化の保全にも貢献しようとする目的で生まれました。

特にイタリアでは、1985年に「アグリツーリズム法」が制定され、農家が宿泊施設を併設し、自家製の料理やワインを提供する形態が合法化されました。これにより、多くの農家レストランやオーガニック農園が観光資源として開花し、地産地消やスローフードといったキーワードとともに、世界中の旅行者に支持されるスタイルとなりました。

その後、フランスでは「ジット(gite)」や「フェルム・オーベルジュ(農家宿)」、アメリカでは「ファームステイ」「ピッキングツアー」など、多様な形で展開されるようになり、それぞれの国の農業・文化的背景に応じて進化しています。

日本でも2010年代以降、農泊推進法や地方創生政策の一環として各地でアグリツーリズムが取り入れられ、観光と飲食業を結びつける形で発展しつつあります。



飲食業界におけるアグリツーリズムの実践

飲食業界におけるアグリツーリズムの導入は、単なる観光の一部ではなく、「食体験の提供」としての側面が強く打ち出されるようになっています。具体的には以下のような形で展開されています:

  • 農場直営レストランの運営:生産現場と食事を一体化させた施設(例:ファーム・レストラン、農園カフェ)。
  • 収穫体験+調理体験:旬の食材を自ら収穫し、シェフや地元の料理人と共に料理を作る。
  • 季節イベントや地産地消フェア:地域の農家と連携した旬の食材のフェアやマルシェなど。
  • ストーリー性のあるメニュー構成:食材の生産者紹介や料理が生まれた背景の解説を加える。

このような取り組みにより、飲食業は単なる「料理提供の場」から「学びと体験の場」へと進化しつつあります。また、食育や地域ブランディングにもつながるため、教育機関や地方自治体との連携も活発化しています。

さらに、農家と飲食店の直接取引が進むことで中間コストを抑え、かつ新鮮で安全な食材の確保も可能になります。これは「サステナブルな飲食経営」の観点からも大きなメリットとなっています。



今後の展望と課題

アグリツーリズムの今後の可能性は非常に大きく、特に次のような点で期待されています:

  • 地方創生の起爆剤:観光客を農村へ呼び込むことで、地域経済の循環を促進。
  • エコ・サステナブルな社会の実現:環境配慮・脱炭素の観点でも支持される流れ。
  • 教育・福祉との連携:障がい者支援やこども食堂など、社会的包摂への応用。

一方で、以下のような課題も存在します:

  • 衛生・施設面の整備:飲食提供には高度な衛生基準が求められる。
  • 人材育成:農業と接客・調理の両面を理解した人材の不足。
  • 継続性の確保:一過性の観光ではなく、地域と飲食業が共に継続的に成長する仕組みが必要。

これらの課題を乗り越えるには、官民連携による制度整備や、民間企業・飲食店側のクリエイティブな発想と実行力が不可欠です。IT技術やSNSの活用により、地域食材の魅力発信や予約・体験管理などの仕組みも進化しています。



まとめ

アグリツーリズムは、農業と観光、そして飲食を融合させた新しい食体験のスタイルです。単なる食事提供にとどまらず、生産者とのつながりや地域との絆、そして環境や社会に対する意識を高める取り組みとして、飲食業界において重要な役割を担っています。

今後、食のストーリー性を重視する時代において、アグリツーリズムは「食べることの本質的な喜び」を再発見する手段として、ますます注目されていくことでしょう。飲食店にとっても、新たな価値提供と顧客体験の深化につながる取り組みとして、積極的な導入が期待されます。

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