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飲食業界におけるアレルギー対応マニュアルとは?

飲食の分野におけるアレルギー対応マニュアル(あれるぎーたいおうまにゅある、Allergy Response Manual、Manuel de gestion des allergies)は、食物アレルギーを持つ顧客に対して安全なサービスを提供するために、飲食店や給食施設などで活用される運用指針・手順書のことを指します。

このマニュアルは、アレルギー物質の取り扱いに関する基本ルールから、メニュー表示、スタッフ教育、緊急時の対応策に至るまで、食物アレルギーに関わるあらゆるリスクを想定して網羅的に策定されます。特に、重篤なアレルギー反応であるアナフィラキシーへの迅速な対応や、アレルゲン混入のリスク低減が重要な要素として含まれています。

昨今、アレルギーによる事故は飲食業界にとって大きな社会的責任を伴う問題となっており、食の安全管理体制の一環としてアレルギー対応マニュアルの整備は急務とされています。

また、こうしたマニュアルは、厚生労働省や自治体のガイドラインを基に各施設が独自に策定するケースが多く、法令遵守だけでなく、企業ブランドや顧客信頼性の向上にも寄与する重要なドキュメントです。

海外の飲食業界においても同様に、Food Allergy Management Protocol や Allergen Handling Guide として運用されており、特にフランスでは「Manuel de gestion des allergies alimentaires」として保健当局が策定例を提示しています。

つまり、アレルギー対応マニュアルとは、食の安心と命を守るための基本設計図であり、日々の業務の中で従業員全員が共通理解を持って対応できるようにするための実務ツールなのです。



アレルギー対応マニュアルの歴史と背景

日本におけるアレルギー対応の意識が高まったのは1990年代後半以降です。それ以前は、アレルギー対応は「個別対応」として属人的に扱われることが多く、体系だった仕組みは存在しませんでした。

2000年代初頭から、学校給食や保育施設でのアレルギー事故が相次いで報道されるようになり、文部科学省や厚生労働省がガイドラインを作成するようになります。これを契機に、民間の飲食事業者にもアレルギー対応の必要性が波及しました。

その中で誕生したのが、施設ごとに作成される「アレルギー対応マニュアル」です。これは、業界団体の指針や行政の通達をもとに、アレルギーの基礎知識、調理現場での注意点、誤提供時の対応などを具体的に記述したものです。

2020年以降はインバウンド対応の一環として、多言語化されたアレルギー表示や、国際的な基準に基づくアレルゲン管理の重要性も増し、国内外の基準との整合性も求められるようになりました。



マニュアルに含まれる主な項目

アレルギー対応マニュアルには、主に以下のような項目が含まれます。

1. 基本方針と管理体制
施設としてのアレルギーに対する姿勢を明確にし、誰がどの役割を担うかを示します。

2. アレルゲン情報の管理
使用するすべての食材のアレルゲン情報を把握し、仕入先の情報や加工時の混入リスクまでを記録します。

3. 調理工程での分離と衛生管理
アレルゲンを含む食材と含まない食材を調理器具・保管場所・提供容器まで含めて分離管理することが求められます。

4. メニュー表示とお客様への案内
メニューに含まれる特定原材料(特定7品目+推奨20品目)を明示し、要望があれば追加情報を迅速に提示できる体制が必要です。

5. 緊急時の対応フロー
誤提供があった場合やアレルギー反応が起きた場合の初期対応、救急への連絡、記録の保存、報告体制などを細かく定めます。

6. スタッフ教育
新入社員やパート・アルバイトを含め、すべての従業員がアレルギー対応について理解し、定期的に訓練を受けることが求められます。



現在の課題と今後の展望

アレルギー対応マニュアルは一定の役割を果たしていますが、情報の更新性と現場の徹底度という面では課題も残っています。

一つ目の課題は、「最新情報への反映の遅れ」です。食材の仕様変更や法改正があっても、マニュアルが即座に更新されないことが多く、現場での誤認を生むリスクがあります。

また、「対応マニュアルはあるが、内容が徹底されていない」ケースも少なくありません。形式的に整備されていても、日々の業務で活用されなければ、現実的な意味を持ちません。教育やチェック体制の強化が求められています。

今後は、ITを活用したデジタルマニュアルの普及が進むことで、リアルタイムな情報共有や対応履歴の蓄積が可能となり、より実効性の高い対応が期待されています。

また、国際基準(例:Codex AlimentariusやISO22000)との整合性を踏まえた多国籍対応も求められるようになり、グローバルチェーンなどでは独自の国際版マニュアルも整備されつつあります。



まとめ

アレルギー対応マニュアルは、単なる社内資料ではなく、「食の安全・安心」を守るための根幹をなすドキュメントです。

その整備と運用を通じて、飲食店はリスクを管理し、顧客の信頼を獲得することができます。今後も、社会の要請や技術の進化に応じて内容をアップデートし続けることが、飲食業界の信頼性向上に不可欠といえるでしょう。

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