飲食業界における持続可能な食材調達とは?
飲食の分野における持続可能な食材調達(じぞくかのうなしょくざいちょうたつ、Sustainable Procurement of Ingredients、Approvisionnement Durable des Ingredients)とは、環境負荷を抑えつつ、地域社会や生産者の経済的安定にも配慮した形で食材を仕入れる仕組みを指します。具体的には、漁業、農業、畜産業といった第一次産業が継続的に成長できるよう、生産方法やサプライチェーン全体の環境・社会的影響を評価し、調達先を選定・継続的に協働することを意味します。
英語表記のSustainable Procurement of Ingredientsは、欧米の外食チェーンや高級レストランで導入が進んでいる概念で、調達ガイドラインや認証制度(MSC認証、ASC認証、オーガニック認証など)を活用しながら、年間調達比率や仕入れ量の透明性を高めています。仏語ではApprovisionnement Durable des Ingredientsと呼ばれ、フランスやベルギーのビストロ、ミシュラン星付きレストランでも、地元生産者との直接契約やフェアトレードの野菜・食肉調達が行われています。
飲食店が持続可能な食材調達を行う意義は大きく二つあります。一つは、消費者意識の変化に伴い、環境保全や動物福祉に配慮したメニューが求められている点。もう一つは、気候変動や過剰漁獲、農地の劣化といったリスクから食材供給の安定化を図れる点です。これにより、長期的な店舗運営のリスク管理とブランド価値向上が期待できます。
持続可能な食材調達の歴史と背景
持続可能な食材調達の原点は1987年の国連〈環境と開発に関する世界委員会報告〉における持続可能性の概念に遡ります。飲食業界で具体的に広がり始めたのは2000年代以降、サステナブルシーフード運動(MSC認証など)やオーガニック農産物の普及を契機としており、欧米の大手レストランチェーンが調達ポリシーを公開する動きが見られました。
日本では、東日本大震災後の地域復興支援や地方創生の流れとともに、地産地消を超えた「持続可能性」を意識した調達が注目され、環境省や農林水産省もガイドラインを策定。国内外の認証制度を活用しつつ、飲食店と生産者が連携するモデル事業も展開されています。
持続可能な食材調達の主要要素
持続可能な調達を実現するための要素には以下があります。
・認証制度の活用:MSC(海洋管理協議会)、ASC(養殖管理協議会)、有機JAS、グローバルGAPなどの認証を取得した食材。
・トレーサビリティ確保:生産者、産地が明確化された食材の仕入れ。QRコードなどを用いた履歴開示。
・直接契約・フェアトレード:中間マージンを削減し、生産者利益を確保するための契約調達。
・メニュー・在庫の最適化:廃棄ロスを減らす発注量管理、余剰食材の再利用。
・環境負荷低減:漁獲量・漁法に配慮した魚介類、化学肥料・農薬を抑制した農産物。
現在の使われ方と導入事例
外食チェーンでは、持続可能食材の使用比率をKPIとして経営指標に組み込み、年次報告書で公開しています。また、都会のレストランでも、地元小規模農家や漁師との連携メニューを提供し、シーズンごとに産地訪問ツアーを実施する事例が増えています。
ホテル業界では、バイキング料理にオーガニック野菜を一定割合導入するほか、海の幸を持続可能な養殖魚に切り替える取り組みが進んでいます。SNSや店舗POPを通じて消費者に情報提供し、SDGs(持続可能な開発目標)達成に寄与する企業姿勢をアピールしています。
まとめ
飲食業界における持続可能な食材調達とは、環境保全、生産者支援、食材供給の安定を同時に実現する調達戦略です。認証制度の活用、トレーサビリティ確保、直接契約、ロス削減など多角的な取り組みが求められます。日本国内でもガイドライン整備や事例が増えつつあり、今後は中小店舗への普及や教育・情報発信強化が課題となります。持続可能な調達を積極的に導入することで、飲食業界は社会的責任を果たしつつ、ブランド価値と顧客満足度を高めることが期待されます。