ホテル業界におけるABF（American Breakfast）とは？
ホテル業界の分野におけるABF（American Breakfast）（えーびーえふ、American Breakfast、Petit Dejeuner Americain）は、アメリカ式の朝食を指す用語です。一般的にスクランブルエッグやベーコン、ソーセージ、トースト、パンケーキなどがセットになり、コーヒーやジュースとともに提供されるのが特徴です。欧米文化の広がりとともに日本のホテルでも採用され、洋朝食の代表格として幅広い宿泊客に親しまれています。
ABFの起源と定義
ABFは、19世紀後半にアメリカのホテルやダイナーで提供され始めた朝食スタイルを起源とします。産業革命期の労働者向けに、短時間で栄養価の高い食事を提供するために考案されたとされ、ボリューム重視と手軽さが特色でした。スクランブルエッグ、ベーコン、ソーセージ、トーストなどをワンプレートでまとめ、テーブルに並べて提供するスタイルが一般化しました。
このスタイルはヨーロッパの伝統的な朝食（ペストリーやチーズ中心）とは異なり、肉類や卵料理を中心に据えることで、しっかりとお腹を満たすことを重視します。20世紀初頭にはホテルチェーンやレストランで標準的な朝食メニューとして定着し、アメリカ国内のみならず世界中に広がっていきました。
日本では高度経済成長期以降、海外旅行が一般化し始めた1970年代後半から80年代にかけて洋食文化が浸透し、ホテルの朝食メニューにもABFが採用されるようになりました。その際、日本人好みに合わせてウィンナーやハム、サラダやフルーツなどを組み合わせることで、和洋折衷的な朝食として発展していきました。
ABFの特長と提供形態
ABFの最大の特長は、多種類のメニューを一度に味わえることです。典型的なABFには、卵料理（スクランブルエッグや目玉焼き）、ベーコンまたはソーセージ、トーストまたはパンケーキ、サラダやフルーツ、コーヒーや紅茶といった飲み物が含まれます。これらをワンプレートで提供するセットスタイルや、ビュッフェ形式で自由に取り分けるスタイルがあります。
ホテル業界では、宿泊プランに朝食を含めるケースが多く、ABFは洋朝食の代表格として選ばれることが一般的です。ビュッフェ形式の場合、ゲストは好きなだけ盛り付けられるため、満足度が高いとされています。また、セットメニューで提供する場合は、事前に選択肢を提示し、できたての料理を一皿ずつ提供するため、品質管理や提供スピードに優れる点が利点です。
近年では、食の安全や健康志向への対応が求められる中で、卵の産地やベーコンの製造方法にこだわるホテルも増えています。地元の食材を取り入れた“ご当地ABF”や、ヘルシー志向のオーガニック食材を使用したメニューを提供するホテルも現れ、従来のスタンダードなABFとは異なる新しいスタイルが生まれています。
現代のABFの動向と利用シーン
現在、ABFは宿泊者だけでなく、宿泊していない日帰り利用者向けにも提供されるケースが増えています。朝だけでなく日中のカフェタイムにABFの一部メニューをアラカルトで提供するホテルもあり、多様な利用シーンに対応しています。特にビジネスホテルでは、朝食券を購入することでABFを利用できるサービスが標準化し、ビジネスマンからファミリーまで幅広く支持されています。
また、インバウンド需要の増加に伴い、外国人観光客向けにABFを強化するホテルも多くあります。観光地のホテルでは、地元の名産品を取り入れた独自メニューを開発し、訪日客に日本らしさと洋風朝食の両方を楽しんでもらう工夫がなされています。これにより、宿泊者の満足度向上とリピーター獲得につながっているのが特徴です。
さらに、新型コロナウイルス感染症の影響で衛生管理が重要視される中、ビュッフェ形式からセット提供への切り替えが進んでいます。セット提供では、スタッフが個別に盛り付けを行うため、ゲストがトングや取り皿に触れずに済むという利点があります。このように、衛生面への配慮をしつつ、ABFの魅力であるバラエティ豊かなメニューを維持する取り組みが各ホテルで進められています。
まとめ
ABF（American Breakfast）は、アメリカ発祥のボリューム重視かつ多彩なメニューを楽しめる朝食スタイルであり、ホテル業界においては洋朝食の定番として広く採用されています。歴史的には19世紀末のアメリカから始まり、日本では高度経済成長期以降に浸透しました。
現在では、ビュッフェ形式やセット提供を通じて、ゲストのニーズに合わせた多様なスタイルで提供されるほか、地元食材や健康志向を取り入れた新たなABFも登場しています。ABFは、朝食の喜びを通じてホテル滞在をより豊かに演出する要素として、今後も進化し続けることでしょう。
