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ホテル業界におけるAGM(Assistant General Manager)とは?

ホテル業界の分野におけるAGM(Assistant General Manager)(えーじーえむ、Assistant General Manager、Directeur general adjoint)は、総支配人(General Manager)の補佐としてホテル全体の運営管理をサポートする役職を指します。組織内では、フロント、客室、飲食、宴会など複数部門の統括や部門長のマネジメントを行い、経営判断や戦略立案に関与します。ホテル運営の円滑な遂行と顧客満足度向上を実現するための重要なポジションです。



AGMの起源と役職の歴史

AGM(Assistant General Manager)という役職は、西洋のホテル産業で誕生しました。19世紀後半、急速に拡大するホテル業界では、総支配人(GM)ひとりで全社的な運営を行うには限界がありました。そこで、GMの補佐役として専門的なマネジメント業務や部門間調整を担うポジションが考案され、これがAGMの起源とされています。当初のAGMは、GMとの連携を密に保ちながら日常業務を管理し、顧客対応やクレーム対応など現場に近い業務を率先して行うことが主な役割でした。

20世紀に入り、ホテル規模の拡大や多様化に伴い、AGMはホテル経営における要職として定着していきました。特に外資系ホテルチェーンでは、本部からの経営方針を現場に浸透させるため、AGMを多く配置し、グローバル基準の運営管理を推進しました。日本国内でも高度経済成長期以降、外資系ホテルの進出と国内ホテルの大型化により、AGMの役割が明確化し、多くのホテルで導入されるようになりました。

日本国内では、1980年代から1990年代にかけて観光産業の拡大が背景となり、大型リゾートホテルやシティホテルにAGM職が設置され始めました。当時はまだ総支配人補佐という意味合いが強く、GMが出張や休暇時にAGMが代行を務める「代理業務」が大きなウエイトを占めていました。しかし、2000年代以降は部門別の専門知識を持つAGMが増加し、単なる代理ではなく経営企画や収益管理に参画するようになったことで、役割は一層重要性を増していきました。



AGMの具体的な業務と求められるスキル

AGMの主な業務は、ホテル全体の運営管理を総支配人と分担し、部門間の調整や戦略的な意思決定をサポートすることです。具体的には、以下のような業務が挙げられます。まず、部門長との定期ミーティングを行い、宿泊率や売上、顧客満足度などのKPIを把握し、改善施策を策定します。この際、部門間の意見調整や情報共有を行い、統一した目標へと導く役割を担います。また、予算作成や費用管理、月次・年次決算業務にも携わり、ホテルの収益性向上を図ります。

さらに、顧客対応においてもAGMは重要な役割を果たします。VIP顧客や大口団体の要望・クレームに対して直接対応し、問題解決を迅速に行わせるのはAGMの責務です。また、マーケティングやPR活動にも参画し、新規顧客獲得のためのプロモーションを立案・実施します。近年ではSNSやWeb広告の活用が必須となっており、AGMはデジタルマーケティングの基本知識も求められるようになりました。

AGMには多岐にわたるスキルが必要です。まず、リーダーシップとマネジメント能力が挙げられます。複数部門を横断する業務を統括し、部門長やスタッフを率いるためには、高度な統率力が求められます。次に、コミュニケーション力も不可欠です。顧客のみならず、社内の各部門や外部パートナーと円滑に情報共有を行い、適切に調整を図る必要があります。さらに、問題解決力やクリティカルシンキングを駆使して、緊急事態やクレーム時にも迅速かつ冷静に対応する能力が重視されます。

加えて、数字に強いことも重要です。収益管理や予算編成時には、財務諸表を読み解き、意思決定に役立つデータ分析が求められます。また、近年は環境配慮やサステナビリティの観点からCSR(企業の社会的責任)活動に関与するホテルが増えており、AGMも環境マネジメントや地域連携プログラムの企画・実行に参加するケースが増加しています。



現在のAGMの位置づけと将来展望

現在、多くのホテルではAGMはGM直下のナンバー2として位置づけられ、将来のGM候補育成の役割も担っています。ホテル業界における人材育成は長期的視点が必要であり、AGMとして経験を積んだ後にGMへ昇進するキャリアパスが一般的となっています。このため、AGMには現場運営だけでなく、人材育成や組織開発の視点も求められます。

また、テクノロジーの進化によりホテル運営のデジタル化が進んでいます。予約システムやCRM、BIツールの活用はもちろん、AIやIoTを活用したスマート客室の導入なども増加しており、AGMはこれらの導入・運用をリードする立場となります。例えば、客室の稼働状況をリアルタイムに把握し、ダイナミックプライシングを行う取り組みや、顧客の滞在履歴をもとにパーソナライズドサービスを提供する運用設計など、先端技術を取り入れた運営戦略を策定する役割が強まっています。

さらに、観光客の多様化とグローバル化に伴い、AGMは多文化対応や外国語対応能力を備えることが必須です。インバウンドゲストへのサービス品質向上を図るため、言語だけでなく文化的背景の理解や異文化コミュニケーションスキルが求められます。その一環として、ホテル内での多言語案内システムや外国人スタッフの教育プログラムを企画・実施し、顧客満足度の向上につなげる取り組みが進んでいます。

一方で、新型コロナウイルス感染症の影響は依然としてホテル業界に大きな課題を突きつけています。衛生管理やソーシャルディスタンスを確保しつつ、業務効率を落とさない運営体制の構築をAGMが牽引しています。具体的には、清掃作業の標準化や非接触チェックインの導入、館内レストランのレイアウト変更などを指示し、スタッフへの教育を行うことで、安全かつ快適な滞在環境を提供しています。

将来的には、サステナビリティや地域貢献を重視する流れがさらに加速すると予想されます。AGMはエコ認証取得や地域連携イベントの企画を通じて、ホテルと地域社会が共生するモデルを構築する役割を担います。そのためには、環境負荷を軽減する運営方針の策定や、地元産品を活用したメニュー開発、地域観光資源の活用プランの立案など、多角的な視点が必要となります。また、従業員のワークライフバランス向上やダイバーシティ推進にも関与し、組織全体の持続可能性を高める取り組みが期待されます。



まとめ

AGM(Assistant General Manager)は、総支配人を補佐しホテル全体の運営管理を担う重要な役職です。歴史的には19世紀後半の欧米ホテルから発祥し、日本国内では高度経済成長期以降に定着しました。現在では、経営戦略や収益管理、テクノロジー導入、人材育成、サステナビリティ対応など多岐にわたる業務を遂行し、将来のGM候補育成の役割も果たしています。

今後はデジタル化のさらなる進展やインバウンド需要の変化、環境配慮の重要性が増す中で、AGMには高度なマネジメント能力と幅広い視野が求められます。ホテルと地域社会が共生する新たなホテルモデルを構築するキーパーソンとして、AGMの役割はますます重要性を増していくことでしょう。

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