ホテル業界におけるアウト・オブ・オーダー・ルームとは?
ホテル業界の分野におけるアウト・オブ・オーダー・ルーム(あうと・おぶ・おーだー・るーむ、Out of Order Room、Chambre hors service)とは、設備故障やリニューアル工事、特別準備などの理由で一時的に宿泊客に提供できない状態となっている客室を指します。通常の販売対象外となり、ホテルの稼働率や収益管理に影響を与えるため、迅速な修繕や適切な運用が求められます。
アウト・オブ・オーダー・ルームの歴史と成り立ち
ホテル業界で客室を一時的に使用不可とする概念は、近代ホテルの成立期にさかのぼります。19世紀後半から20世紀初頭にかけて、ヨーロッパやアメリカの大都市部で高級ホテルが増加し始めた頃、客室設備の老朽化や改装工事の際に一時的に客室を閉鎖する必要が生じました。当時はまだプロパティマネジメントシステム(PMS)が普及しておらず、紙の台帳で客室状況を管理していたため、「アウト・オブ・オーダー」の表示やメモを手書きで記録していました。
1970年代以降、ホテル業界にITシステムが導入され始めると、PMSで客室ステータスを「Out of Order」として選択できるようになり、各部門間の情報共有が容易になりました。これにより、メンテナンス部門、ハウスキーピング部門、フロント部門がリアルタイムに客室の使用状況を把握し、迅速に修繕や再販売の準備を行えるようになりました。
日本においては、高度経済成長期にホテル需要が急増すると同時に、施設の改装や設備更新も頻繁に行われるようになりました。特に1970年代後半から1980年代にかけて、リゾートホテルや都市型ホテルでは大規模な改装工事が相次ぎ、アウト・オブ・オーダー・ルームの運用が定着しました。現在では、PMSやBIツールでアイドルタイムや収益機会を管理しながら、アウト・オブ・オーダー・ルームを最小限に抑える取り組みが常態化しています。
アウト・オブ・オーダー・ルームの主な理由と影響
アウト・オブ・オーダーになる理由は大きく分けて「設備故障」「改装工事」「特別準備」の三つがあります。設備故障では、空調設備の不具合や給湯管の破損、電気設備のトラブルなどが発生すると、安全・快適にお客様をお迎えできないため、該当客室を即座に使用不可にします。これにより、数時間から数日間の修繕期間が発生し、客室稼働率が低下します。
次に、改装工事では、ホテルの全館改装や階層別リノベーションを行う際に一部または全客室が長期間アウト・オブ・オーダーとなります。特に、インバウンド需要に対応するための内装刷新やバリアフリー化などの大規模投資が行われると、数週間から数か月単位で客室数が減少し、全体の収益に大きな影響を及ぼします。
最後に、特別準備では、VIPゲスト専用の客室改装や撮影・イベント用のデコレーション、家具・家電の入れ替えなど、宿泊以外の目的で客室を一定期間占有するケースです。これにより短期間ながらアウト・オブ・オーダー・ルームが発生し、通常の予約枠から外れるため、稼働率と売上に影響を与えます。
これらの理由により発生したアウト・オブ・オーダー・ルームは、PMS上でステータスを「O.O.O.(Out of Order)」に変更し、清掃指示やメンテナンス依頼と連動して管理されます。客室台帳や稼働率レポートには反映されず、稼働可能状態に戻るまで予約ブロックされるため、売上機会を失うリスクが生じます。
アウト・オブ・オーダー・ルーム管理の手法とベストプラクティス
アウト・オブ・オーダー・ルームを最小化するためには、まず原因となる設備故障の抑制が重要です。予防保全として、定期的な設備点検と適切なメンテナンススケジュールを組むことで、突発的な故障発生を低減します。たとえば、空調フィルターの清掃やボイラー点検、配管の漏水チェックなどを年間計画で実行し、故障リスクを把握することで早期対策が可能となります。
次に、改装工事の計画では、オフシーズンや閑散期を狙って実施することが基本です。宿泊需要が低い時期に数十室単位のリノベーションを行い、ピーク期には全客室を稼働させるよう調整します。また、部分改装を段階的に行い、一度に多数客室を閉鎖しないようプロジェクト管理を徹底します。工事スケジュールはPMSと連携し、リアルタイムで客室ステータスを更新することでフロントスタッフが正確な在庫情報を把握できるようにします。
特別準備の場合は、事前にイベント日程や撮影日程を把握し、アウト・オブ・オーダー・ルームとして影響範囲を最小化する計画を立てます。たとえば、VIP用客室の模様替えを行う際には隣接する客室への影響を吸収する代替客室を確保し、宿泊客の不満を防止します。これにより、稼働率低下と顧客クレームの双方を抑制できます。
さらに、アウト・オブ・オーダー・ルームを管理するうえで重要なのは情報共有と可視化です。PMSにアウト・オブ・オーダーの理由や見込み復旧日時を入力し、部門間でリアルタイムに共有します。マネジメントレポートには、月別・階層別のアウト・オブ・オーダー発生数を集計し、原因分析と改善策を検討します。BIツールを活用し、故障傾向や改装投資効果を数値化して運営戦略に反映することが、現代的なベストプラクティスです。
まとめ
アウト・オブ・オーダー・ルームとは、設備故障、改装工事、特別準備などにより一時的に宿泊提供ができない客室を指し、ホテルの稼働率と収益に大きな影響を与える重要な指標です。歴史的には、客室管理のデジタル化が進むとともにPMS上でリアルタイムにステータス管理が可能となり、アウト・オブ・オーダー・ルームの可視化と対応策が進化しました。
対策としては、予防保全による故障抑制、閑散期を狙った改装計画、部分的な改装実施、特別準備の事前調整などが挙げられます。情報共有と可視化を徹底し、BIツールで傾向分析を行うことが現代的な運営におけるベストプラクティスです。アウト・オブ・オーダー・ルームの最小化は、ホテルの顧客満足と収益最大化に直結するため、今後も適切な管理と継続的な改善が求められます。