ウォーターレス印刷とは?
印刷業界におけるウォーターレス印刷(うぉーたーれすいんさつ、Waterless Printing / Impression Sans Eau)とは、従来のオフセット印刷で用いられる水(湿し水)を使用せずに行う印刷方式のことです。この方法では、特殊なシリコーン層が塗布された印刷版を使い、インクが必要な部分だけに付着させることで高精細な印刷を実現します。ウォーターレス印刷は、環境負荷の低減や安定した高品質の発色が求められる分野で注目されており、特に高解像度や鮮やかな色彩が必要な印刷に適しています。
ウォーターレス印刷の歴史と開発背景
ウォーターレス印刷の概念は1970年代に日本で開発されました。当時、従来のオフセット印刷では、インクと水を同時に使用して印刷版に均一なインク膜を作る方法が一般的でしたが、湿し水の調整が難しく、環境への影響も問題視されていました。湿し水にはアルコールや化学薬品が含まれており、これが揮発して大気汚染や印刷現場での健康被害を引き起こすリスクがあったためです。
こうした課題を解決するために、印刷版にシリコーン層を設けてインクが不要な部分を覆い、インクが必要な箇所だけに付着させる「ウォーターレス印刷」が開発されました。この技術により、湿し水が不要になり、インクの流動や乾燥が安定し、より正確な色再現が可能になりました。1980年代以降、環境への配慮が進む中でウォーターレス印刷の需要が増加し、現在ではエコロジー対応印刷として広く知られています。
ウォーターレス印刷の仕組みと特徴
ウォーターレス印刷では、特殊なシリコーンプレートを使用します。シリコーン層が印刷版の不要な部分を覆うことでインクが付かず、必要な部分だけにインクが乗る仕組みです。通常のオフセット印刷と異なり湿し水を使用しないため、水分の影響を受けず、インクの安定供給が可能となります。
1. 高精度な色再現: 湿し水が不要であるため、インクの濃度が一定に保たれ、安定した色再現が可能です。また、湿し水が原因となるインクのにじみや色ムラも生じにくく、写真集やアートブックなど、高い精度の色再現が求められる印刷物に適しています。
2. 環境負荷の低減: 湿し水を使用しないため、アルコールや化学薬品が必要なくなり、大気への有害物質の排出が削減されます。また、廃水処理が不要になることで水資源の節約にもつながり、環境に優しい印刷方式として評価されています。
3. 印刷作業の効率化: 湿し水の調整が不要なため、印刷工程が簡素化され、迅速な印刷が可能です。また、湿し水の量やインク濃度の調整が不要であるため、印刷設定の手間が減り、作業効率が向上します。
現代の印刷業界におけるウォーターレス印刷の活用
現在の印刷業界では、ウォーターレス印刷はエコロジー印刷や特殊印刷として多くの分野で活用されています。特に、高品質な画像や写真を扱う印刷物、アート関連の書籍、そして高級パッケージなどで重宝され、印刷の発色や質感が求められる商業印刷に適しています。
また、環境への配慮が求められる印刷プロジェクトでは、ウォーターレス印刷が採用されるケースが増えています。自治体の広報誌やエコロジーを重視する企業のパンフレットなどでは、ウォーターレス印刷の採用によって、環境に配慮した印刷であることをPRすることも可能です。
ウォーターレス印刷の課題と今後の展望
ウォーターレス印刷には、専用のシリコーンプレートやインクが必要であるため、初期コストが高くなる点が課題です。また、湿し水を使用しないことで温度や湿度の影響を受けやすく、適切な環境管理が求められるため、印刷現場の設備や条件が限られる場合もあります。
今後は、ウォーターレス印刷の技術がさらに進化し、より汎用性が高く、コスト面で優れた機材やインクが開発されることが期待されています。また、環境保護意識の高まりとともに、エコロジー印刷のニーズはますます増加しており、ウォーターレス印刷は持続可能な印刷方式としての需要が続くでしょう。持続可能な社会を目指す中で、ウォーターレス印刷の普及と技術革新は、印刷業界においてますます重要な役割を果たすと考えられます。