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不動産業界におけるインスペクションとは?

不動産業界の分野におけるインスペクション(いんすぺくしょん、Inspection、Inspection immobili?re)は、住宅や建物などの不動産の劣化状況や不具合の有無を、専門の調査員が目視や機器を用いて診断・評価する作業を指します。主に中古住宅取引時に実施され、売買の透明性を高め、トラブルの予防や契約不適合リスクの回避を目的とします。住宅診断や建物状況調査とも呼ばれます。



インスペクションの定義と不動産取引における役割

インスペクションとは、不動産の構造や設備の劣化状態、不具合の有無、修繕の必要性などを、専門知識を有する建築士などが調査・評価する業務を意味します。

この調査は、不動産の売買契約前や引き渡し前に行われ、建物の安全性や機能性を可視化し、売主・買主の双方が安心して取引できるようにすることを目的とします。

インスペクションで調査対象となる項目の例は以下の通りです。

・構造躯体(基礎、柱、梁など)の劣化・損傷状況

・屋根や外壁のひび割れ、雨漏りの可能性

・床の傾斜、建具の開閉不良、結露の跡

・給排水・電気・換気などの住宅設備の作動状況

報告書は「建物状況調査報告書」として発行され、重要事項説明書や売買契約書の根拠資料としても利用されます。

また、結果に基づき、リフォームの見積もりや、既存住宅売買瑕疵保険への加入の判断材料ともなります。



インスペクションの語源と制度の歴史的背景

「インスペクション」は、英語で “Inspection”、フランス語では “Inspection immobili?re” と呼ばれ、いずれも「点検」「検査」といった意味を持つ言葉です。

アメリカやカナダでは、住宅購入時に第三者によるホームインスペクターの調査を受けることが一般的であり、不動産の品質確認が買主保護の常識となっています。

日本では、2000年代以降、中古住宅の市場活性化や取引の信頼性確保が課題となり、2013年の「既存住宅インスペクション・ガイドライン」策定を経て、2018年の宅建業法改正により制度として導入されました。

この改正により、宅地建物取引業者は、媒介契約締結時にインスペクションの説明を行う義務を負い、実施の有無や結果を重要事項説明に記載することが義務づけられました。

また、建築士の資格を持ち、国土交通省が定めた講習を修了した者が行う「既存住宅状況調査」が法的に定義され、信頼性のある調査体制が整備されました。



現代の不動産実務におけるインスペクションの活用と課題

不動産業界では、インスペクションは中古住宅の価値を可視化する手段として、以下のように活用されています。

・買主の安心感を高める材料(契約リスクの回避)

・売主の責任範囲の明確化(契約不適合責任への対処)

・住宅ローン審査や保険加入の補完資料

・将来的なリフォーム・修繕計画の基礎資料

特に、築年数が経過した住宅相続・空き家物件の売却時には、インスペクションを行うことで、客観的な資産価値の把握と買主への信頼醸成につながります。

また、インスペクションの実施後には、以下のような情報が記載された報告書が作成されます。

・劣化の有無や範囲

・今後修繕が必要と考えられる箇所

・現時点での居住の安全性評価

一方、実務における課題も存在します。

・売主が調査を拒むケースや、実施費用の負担先が曖昧

・報告書の記述内容が専門的で、買主が理解しにくい

・調査範囲が「目視・触診」に限定され、壁内・床下・天井裏などの詳細までは分からない

このため、事前に調査範囲・内容を明示し、買主への丁寧な説明や、調査結果に基づいた契約条項の整理が必要とされます。

また、今後はドローンや赤外線カメラ、AI診断技術の導入によって、非破壊検査の精度が向上し、より高度で包括的な建物評価が期待されています。



まとめ

インスペクションとは、不動産の状態を専門家が調査・診断する制度であり、中古住宅市場の信頼性と透明性を高めるために欠かせない仕組みです。

契約前に物件のリスクや補修の必要性を可視化することで、売買双方の納得感を高め、契約不適合責任などの法的トラブルを未然に防ぐ効果があります。

今後もインスペクションは、不動産取引における標準的プロセスとしての定着と、技術革新を活かした制度の発展が求められる分野となっていくでしょう。

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