舞台・演劇におけるアクティビティベースドラマとは?
舞台・演劇の分野におけるアクティビティベースドラマ(あくてぃびてぃべーすどどらま、Activity-Based Drama、Drame basé sur l'activité)は、演劇教育や舞台創作において、「活動(activity)」を中心に据えた体験的・参加型の演劇手法を指します。特に教育現場やコミュニティ活動において用いられ、即興的な身体表現や集団的な創作を通じて、参加者の表現力・創造力・協働力を高めることを目的としています。
この手法では、事前に用意された台本や舞台装置に依存するのではなく、身体を使ったワークやグループアクティビティを通じてドラマ(劇的状況)を構築するという特徴があります。演劇を「観るもの」から「つくるもの」へと転換させる教育的アプローチとも言えるでしょう。
語源となる「Activity」は「活動、行動」を意味し、「Based Drama」は「〜を基盤としたドラマ」の意です。つまり、アクティビティベースドラマとは、「活動そのものを基盤に構成される演劇的体験」と訳すことができます。
この手法は英国やオーストラリアの演劇教育(Drama-in-Education)の流れを汲み、日本においても演劇ワークショップや学校教育、演劇療法、福祉・リハビリの現場で幅広く活用されています。
本記事では、アクティビティベースドラマの理論的背景、実践手法、活用分野、そして今後の展望について詳しく解説いたします。
アクティビティベースドラマの背景と発展
アクティビティベースドラマの原点は、20世紀半ばにイギリスの教育演劇の現場で提唱された「プロセス・ドラマ(Process Drama)」や「教育のためのドラマ(Drama-in-Education)」にあります。
この考え方は、ドロシー・ヒースコートやガビン・ボルトンといった教育演劇のパイオニアたちによって発展されました。彼らは、台本に従うのではなく、参加者が状況を演じることで学びが深まるという点を重視し、ワークショップ形式での演劇活動を導入しました。
こうした演劇活動は次第に教育や福祉、地域活動の現場に取り入れられ、より汎用性の高い実践形式として「アクティビティベースドラマ」という名称が定着していきました。
日本では、1990年代以降、教育現場や青少年育成、演劇ワークショップの文脈でこの手法が注目され始め、現在では全国の学校や劇団、市民団体などで幅広く活用されています。
アクティビティベースドラマの手法と実践内容
アクティビティベースドラマの最大の特徴は、参加型・体験型であることです。台詞や演出よりも、活動そのものが重視されるため、誰でも気軽に参加でき、演劇経験の有無にかかわらず創造的な表現を体験できます。
以下は代表的なアクティビティの例です:
- イメージ・ワーク:身体や表情を使って、抽象的な概念(例:喜び、不安、自由)を即興で表現
- フリーズ・フレーム:場面の一瞬を静止画のように演じ、そこに込められた関係性や感情を考察する
- ロール・プレイ:ある人物になりきり、与えられた状況に対応する
- ホット・シーティング:参加者が役になりきってインタビューに答えることで、キャラクターの背景を掘り下げる
これらのアクティビティを通して、参加者は創造力、共感力、コミュニケーション力を自然に高めることができます。特に子どもや若者にとっては、言葉にしにくい感情や価値観を身体で表現する貴重な機会となります。
また、アクティビティはファシリテーター(指導者)によって柔軟にアレンジされ、学習テーマ(歴史、道徳、社会問題など)や年齢層に応じた内容に設計される点も特徴的です。
現代における活用分野とその意義
現在、アクティビティベースドラマは以下のような分野で活用されています:
- 学校教育:総合学習、道徳教育、国語科、英語科、特別活動などの一環として
- 演劇教育:演劇部や演技トレーニングの導入ワークとして
- 福祉・リハビリ:高齢者福祉や発達障がい児支援、メンタルヘルスケアなどのプログラムとして
- 地域活動・国際交流:市民演劇や多文化理解のためのワークショップとして
その背景には、「対話型・体験型学習」の重視という現代的な教育観の広がりがあります。アクティビティベースドラマは、知識の伝達だけではなく、個人の内面に働きかける学びを可能にする点で注目されています。
また、演劇を「つくる側」に立つことで、自己表現だけでなく他者との関係性や社会とのつながりを体感的に理解することができ、生きる力や社会的スキルの育成にも貢献しています。
さらに、コロナ禍を経てオンラインでの実施方法も模索されるようになり、デジタルツールを活用したアクティビティの展開も始まっています。
まとめ
アクティビティベースドラマは、身体を動かす「活動」を基盤とした参加型・体験型の演劇手法であり、教育、福祉、地域文化などさまざまな分野で活用されています。
その目的は、表現力や想像力の育成にとどまらず、他者理解や社会性の向上といった、現代社会における重要なスキルの習得にまで及びます。
今後も、対話と共創を重視する社会において、アクティビティベースドラマは新しい学びと表現のかたちとして、ますますその価値を高めていくことでしょう。