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舞台・演劇におけるアクティベーションアクトとは?

舞台・演劇の分野におけるアクティベーションアクト(あくてぃべーしょんあくと、Activation Act、Acte d’activation)は、舞台・演劇の分野において、観客・空間・社会との関係性を「活性化(アクティベート)」することを目的とした演劇的行為または上演形式を指します。これは単なる「演技(アクト)」ではなく、観客の参加や意識の変容、場の意味を喚起するための“きっかけとなる行動”として捉えられます。

この用語の核心には、「劇場を出て社会に働きかける」「観客を能動的な存在として巻き込む」「空間そのものを起動させる」といった演劇の枠組みを超えた創造的戦略が含まれています。

アクティベーションアクトは、特に近年のソーシャリー・エンゲージド・シアター(社会的関与型演劇)やサイトスペシフィック・パフォーマンス(特定の場所に根ざした演劇)、インスタレーション型演劇などにおいて用いられるキーワードであり、芸術が社会と交差する地点で生まれる「行動としての演劇」を表す言葉として定着しつつあります。

美術の分野で「アートをアクティベートする」という表現が、展示空間や観客との関係性を立ち上げることを意味するように、舞台芸術におけるアクティベーションアクトもまた、演劇の枠外に“行為の場”を拡張する試みと捉えられています。

本記事では、アクティベーションアクトの語源的意味、演劇における実践例、社会的・教育的な効果、そして現代演劇における意義について詳しく解説していきます。



アクティベーションアクトの起源と概念的背景

アクティベーションアクトという用語は、演劇に限らず、現代アート、都市空間デザイン、教育、社会運動など多くの分野で使われており、共通して“潜在しているものを動かす”という意味を持っています。

語源の“Activation”は「活性化」「始動」「機能させること」を意味し、“Act”は「行為」「演技」「実践」を意味します。すなわち、「アクティベーションアクト」とは、社会・空間・身体・感情などを“能動的に起動させる”ための行動であり、演劇的文脈においてはその上演や演出の方法論を指します。

この概念の源流には以下のような演劇・アート運動が影響を与えています:

  • アウグスト・ボアールの「被抑圧者の演劇」:観客が行動することで抑圧の構造を“起動”させる。
  • アクティビズムとパフォーマンスアートの融合:社会課題に対する演劇的抗議行為や公共空間での突発的パフォーマンス。
  • 現代美術における「アクティベーション」:展示物が観客の介入によって意味を持つという考え方。

これらを舞台芸術の文脈に取り込んだ結果、観客や市民が「見る人」から「動く人」へと変化することを促す演劇的行為が、「アクティベーションアクト」として言語化されていきました。



演劇実践におけるアクティベーションアクトの具体例

実際の舞台・演劇において、アクティベーションアクトはどのように展開されるのでしょうか。以下に代表的な実践形態を紹介します。

  • 1. 市民参加型パフォーマンス:公園や駅前など公共空間において、通行人に声をかけて参加を促し、その場で短い演劇行為を共に行う。
  • 2. 社会対話を誘発する演劇的介入:観客に問いかける形式のモノローグや、匿名の手紙を用いた“声なき声”の可視化。
  • 3. 観客の選択によって進行が変わる演出:インタラクティブ演劇で、観客の行動や意見が物語に組み込まれる。
  • 4. 芸術×社会実験プロジェクト:地域の歴史や課題をテーマにした演劇作品を上演し、上演後に地域住民と対話する「ポスト・アクト・セッション」を含める。

これらの実践に共通しているのは、演者だけでなく観客、空間、文脈が“共演者”として動き出すということです。

「アクティベーションアクト」はしばしば予測不可能で即興性が高く、観客に「演劇を見た」のではなく「演劇をした」「演劇に巻き込まれた」という経験を残します。これが、観客の意識や社会的関心を喚起する重要な契機となるのです。



現代演劇における意義と社会的インパクト

アクティベーションアクトは、ただの演出手法ではなく、現代社会において「演劇が果たしうる役割」の再定義でもあります。

以下のような意義が挙げられます:

  • 1. 受動的な観客から能動的な参与者へ:演劇を見ることが、行動すること、考えること、変化することへと接続する。
  • 2. 芸術と社会の境界をゆるめる:劇場の外でも「演劇」が成立しうることを証明し、日常を舞台に変える
  • 3. 公共性の再発見:都市空間や地域社会との関わりの中で、芸術が公共空間を活性化する手段となる。
  • 4. 教育・福祉との接続:ワークショップ形式やリサーチ型演劇と連動し、自己表現と社会理解を同時に育む

さらに、観客自身がアクティベーションアクトを通して「自分の中の演者性」を発見することもあり、「観客=表現者」という現代的な芸術観を実践する場ともなり得ます。

このように、アクティベーションアクトは“見せる芸術”から“起こす芸術”へと演劇の重心を移動させる概念であり、ポストパンデミック時代における舞台芸術の方向性を示すヒントともなるでしょう。



まとめ

アクティベーションアクトとは、舞台・演劇における行為を通じて、観客、空間、社会との関係を活性化させる創造的な演劇的実践を意味します。

従来の上演型演劇を超えて、能動的な参与、即興的な変化、空間の起動、社会との接続を可能にするこの手法は、現代の舞台芸術において非常に重要なアプローチです。

今後も、劇場という場を飛び出し、社会の中で対話を起こし、行動を引き出す“アクティベーション”としての演劇が、新たな可能性を切り拓いていくでしょう。


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