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舞台・演劇におけるアクティングコーチとは?

舞台・演劇の分野におけるアクティングコーチ(あくてぃんぐこーち、Acting Coach、Coach d’interprétation)は、俳優が演技力を高めるために指導・助言を行う専門家のことを指します。単なる技術指導者ではなく、俳優の内面と表現の両面を引き出す“演技のトレーナー”として、舞台稽古や本番、さらにはオーディション準備の現場でも重要な役割を果たします。

アクティングコーチは、演出家とは異なり、作品全体のビジョンを構築する立場ではなく、俳優個人の課題に寄り添い、役作りや演技の質を高めるための個別的アプローチを担います。ときには心理的なサポートも含まれ、俳優の自己理解や感情表現の深化を手助けする存在でもあります。

現代では、舞台演劇だけでなく、映画・ドラマ・CMなどの映像演技においてもアクティングコーチの需要が高まっており、特に役作りが難しい配役や感情の振幅が大きいシーンを演じる際に、その専門的な指導が欠かせません。

本記事では、アクティングコーチの役割、主な指導内容、俳優との関係性、具体的な活動現場、そして今後の舞台芸術における位置づけについて詳しく解説します。



アクティングコーチの役割と必要性

アクティングコーチの主な役割は、俳優が役に深く入り込み、説得力ある演技を発揮するための技術・精神両面のサポートを行うことです。演出家とは異なり、俳優一人ひとりと密に向き合い、課題に応じて柔軟なトレーニングを提供します。

具体的な役割は次のとおりです:

  • 1. 演技技術の指導:発声、滑舌、身体表現、感情のコントロールなど、演技基礎の習得と改善。
  • 2. 役作りのサポート:キャラクターの心理背景、行動動機の理解を深め、内面から役を生きるためのプロセスを一緒に探る。
  • 3. 台詞解釈・分析:台詞の意味、言葉の間、感情の流れなどを俳優と共に分析し、説得力のある表現に導く。
  • 4. 即興力・反応力の強化:予期しない状況に対応できる柔軟性や即興性を養うワークを提供。
  • 5. メンタルサポート:オーディションの不安、本番前の緊張、スランプなどに寄り添い、安心して演技に集中できる環境を整える。

特に若手俳優や、演技経験の浅い人物にとっては、アクティングコーチが「演劇の羅針盤」となり、自身の表現力を客観的に見つめ直す機会を与えてくれます。



指導方法と演技トレーニングの実例

アクティングコーチの指導スタイルは多様であり、俳優の個性・スキルレベル・出演する作品のジャンルに応じて調整されます。以下は一般的なトレーニング手法の例です。

  • 1. モノローグ演習:一人芝居形式で感情の流れや声の抑揚、内面の動きを表現。自己開示の練習にもなる。
  • 2. サブテキスト訓練:台詞に込められた“言葉にならない感情”や“行間”を読み解き、身体で伝える技術を磨く。
  • 3. イマジネーションワーク:五感を刺激するエクササイズを通じて、想像力を豊かにし演技の源泉を広げる。
  • 4. 呼吸と身体の連動:ブレス(呼吸)と感情のつながりに着目し、自然な感情の出入りをコントロール。
  • 5. インプロヴィゼーション(即興)練習:予測できない状況でのリアクションを鍛え、舞台上での柔軟性を高める。

たとえば、感情の表出が苦手な俳優には「日常の習慣を一つずつ演じ直す」ワークを用いたり、逆に表現がオーバーになりやすい俳優には「動かずに感情を見せる」演習を行うなど、個々の傾向に応じたアプローチが特徴です。

また、現場での台詞コーチングも重要な役割であり、本番直前の細かな台詞のニュアンス修正や、演出家の意図を俳優に橋渡しする場面も多く見られます。



アクティングコーチと俳優の関係性、そして現代的意義

演出家が「作品」を創るのに対し、アクティングコーチは「俳優そのものの成長」に注力します。だからこそ、両者の関係性は伴走者的・師弟的であることが多く、信頼に基づいた個別支援が求められます。

近年では以下のような現場でも、アクティングコーチが活躍しています:

  • 若手俳優の発掘・育成プロジェクト(劇団や芸能事務所主催)
  • プロダクションにおける稽古付きコーチング(本番に向けた個別指導)
  • 学校や養成所での演技教育(基礎から応用までの体系的指導)
  • 映像演技への対応強化(ミリ単位の感情変化やカメラ映りの調整)

現代の演劇では、演者により多様な演技力と感受性、そして自律的な役作り能力が求められます。そのため、アクティングコーチの存在は単なるトレーナーにとどまらず、俳優の創造力を導く“対話的メンター”として、極めて重要な役割を果たしているのです。

また、最近ではメンタルヘルスへの配慮やセルフケアの指導など、俳優の「心と体」の総合サポートを行うことも、アクティングコーチの新たな領域として注目されています。



まとめ

アクティングコーチとは、俳優一人ひとりの内面や表現力に寄り添い、演技力の向上と自己理解をサポートする専門的指導者です。

演技の技術を磨くだけでなく、感情や身体、想像力といった“演技の根”を育てる存在として、舞台・映像を問わずその重要性は年々高まっています。

今後の演劇界において、俳優と作品をつなぐ架け橋としてのアクティングコーチは、より創造的で多角的な芸術活動を支える“見えざるキーパーソン”として活躍の場を広げていくでしょう。


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