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舞台・演劇におけるアクトレスとは?

舞台・演劇の分野におけるアクトレス(あくとれす、Actress、Actrice)は、演劇、映画、テレビ、ミュージカルなどの芸能分野において、演技を専門職とする女性俳優を指す言葉です。男性俳優を意味する「アクター(Actor)」に対して、ジェンダーを区別して用いられる表現であり、英語圏やフランス語圏においては長く一般的に使用されてきました。

英語では「Actress」、フランス語では「Actrice」と表記され、語源はラテン語の agere(行動する、演じる)に由来します。19世紀から20世紀にかけて、この語は演劇界で活躍する女性の職能を明示する呼称として確立し、同時に華やかな舞台の象徴的存在ともなりました。

ただし、近年ではジェンダー平等の観点から、英語圏においては「Actor」というジェンダーニュートラルな呼称に一本化する動きも強まっており、「Actress」という表現の使用には文脈や時代背景を踏まえた慎重さが求められる場面もあります。

それでもなお、アクトレスという言葉は演劇史、スターシステム、パフォーマンス理論などと深く結びつきながら、舞台芸術における女性の存在や社会的な位置づけを象徴する重要な語として用いられ続けています。

本記事では、アクトレスの定義と語源、演劇史における登場と展開、現代における言葉の扱い方や象徴的意味までを丁寧に解説いたします。



アクトレスの歴史と語源的背景

アクトレスという言葉が用いられるようになったのは、女性が舞台で公に演じることが許可されるようになった近世以降のことです。中世ヨーロッパでは宗教的な制約から、舞台に立つのは基本的に男性だけであり、女性の役も男性が演じていました。

しかし、17世紀以降、イタリアのコメディア・デラルテやフランスの宮廷演劇を中心に女性の舞台登場が一般化し、18世紀のイギリスやフランスでは舞台女優の存在が確立。とりわけ、英国の女優 サラ・シドンズ やフランスの マドレーヌ・ベジャール などは「アクトレス」という言葉の象徴的存在となりました。

英語の「Actress」は、元来「Act(演じる)」+「-ess(女性を意味する接尾辞)」の構成で、男性形である「Actor」に対応する女性形です。フランス語「Actrice」も同様に「Acteur(男優)」の女性形として成立しています。

19世紀のロマン主義や写実主義の舞台では、女優たちは単なる装飾的存在を超えて、演技の表現力や感情の深さで観客を魅了する存在へと進化していきました。舞台上における「女性の身体と言葉」の表現が、文化やジェンダーの在り方と直結するものとして注目されるようになったのもこの時期からです。



アクトレスの芸術的・社会的役割

舞台や映像においてアクトレスが果たす役割は、単なるキャストの一員にとどまりません。女優たちは、演劇の内容・テーマ・表現形式の中でしばしば象徴的な存在となり、時代や社会の価値観を体現する存在として観客の記憶に残ることも少なくありません。

時代 代表的なアクトレス 特徴・社会的意義
19世紀 サラ・ベルナール 「ディーバ」の象徴、芸術と大衆性の融合
20世紀前半 岸田今日子、ヘレン・ヘイズ 写実的演技と文学的舞台作品への貢献
20世紀後半 イングリッド・バーグマン、杉村春子 映画と舞台の架け橋、国際的評価
現代 メリル・ストリープ、宮沢りえ ジェンダーや多様性を内包した演技への進化

また、アクトレスは観客との感情的な橋渡し役でもあります。演じる人物像を通して女性の生き方・葛藤・夢を可視化し、観客に共感や省察の機会を与えるのです。

一方で、メディアにおける消費的視線やステレオタイプな役柄の押し付けといった問題も歴史的に存在し、アクトレスはその都度、社会的制約を超えるための存在として格闘してきたとも言えます。



現代における「アクトレス」という言葉の再定義

近年では、英語圏を中心に「Actress」ではなくジェンダー中立的な「Actor」という呼称を女性にも使用する動きが広がっています。アカデミー賞などの公式な場では依然として「Best Actress」のように分類されていますが、演劇や映画評論、俳優教育の分野では「全ての俳優はActorである」という理念に基づいて表記を統一する例も増えています。

その一方で、「アクトレス」という言葉には歴史的・芸術的な文脈が含まれており、クラシック演劇や文化論的な場面では、今なお尊厳と敬意を込めた表現として用いられています。

■ 言葉の使い分けの傾向(現代英語圏)

用語 対象 傾向・ニュアンス
Actress 女性俳優 伝統的・形式的な表現、古典や賞レースで使用
Actor 性別を問わない俳優 現代的・中立的な表現、教育・批評・業界内部で一般的

このように、演劇用語としての「アクトレス」は、時代とともに意味を変容させつつも、演技という行為を通じて社会に対話を生み出す存在であり続けています。



まとめ

アクトレスとは、舞台や映像の世界で演技を専門とする女性俳優を指す言葉であり、演劇史・文化史の中で重要な役割を果たしてきた存在です。

時代や社会の変化に伴い、その語の使われ方や意味も進化し続けていますが、人間の内面や感情を豊かに表現する存在としてのアクトレスは、これからの舞台芸術においても変わらぬ価値を持ち続けるでしょう。


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