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演劇におけるパラレルシーンとは?

舞台・演劇の分野におけるパラレルシーン(ぱられるしーん、Parallel Scene、Scene parallele)とは、同一の物語世界を異なる視点や時間軸で同時に上演し、観客に多層的な物語体験を提供する演出手法を指します。舞台上に複数の場面を同時並行で配置し、照明や音響、俳優の動線を駆使して、場面間の対比や重なり合いを視覚的・聴覚的に強調します。たとえば、同じ出来事を異なるキャラクターの視点で同時に描くことで、物語の深層にある真実や登場人物同士の関係性を浮かび上がらせる効果があります。

この技法は、映像作品の並行編集(クロスカッティング)と演劇的表現が融合したもので、20世紀後半以降、実験劇場や前衛的演出家によって取り入れられてきました。日本では、現代劇壇やアートスペースでの小規模実験的公演を通じて浸透し、同時上演のシーンごとに異なる舞台装置や空間演出を行うことで、観客自身が能動的に物語の結節点をつなぎ合わせる体験を味わいます。

演出家は、パラレルシーンを用いることで、直線的な物語進行の枠を超え、時間と空間を自由に操ることが可能になります。これにより、観客は物語の断片を自分で組み立てながら鑑賞し、多様な解釈の余地を得ると同時に、演者の繊細な動きや照明の変化に心を傾けるようになります。



パラレルシーンの起源と発展

パラレルシーンの起源は、映像編集技法であるクロスカッティングにあります。19世紀末の映画黎明期にデヴィッド・ワーク・グリフィスらが導入した並行編集は、異なる場面を交互に見せることで物語の緊張感を高める手法でした。演劇では、20世紀後半の前衛劇場運動において、時間と空間の重層的表現を求める演出家が、この技法を舞台上に応用し始めました。

特に1960~70年代のヨーロッパ実験演劇では、同一舞台上を複数の「小舞台」に分割し、登場人物ごとのシーンを同時に上演する試みが行われました。日本でも現代演劇作家がこれに影響を受け、異なる視点を同時に展開することで、従来の「始まりから終わりへ」という演劇の時間軸を解体し、新たな鑑賞体験を提示するパラレルシーンを定着させました。

1990年代以降、マルチプロジェクションやサウンドデザインを組み合わせた大規模な実験公演でも採用され、演劇における空間芸術としての可能性がさらに拡大しています。



手法と演出上の工夫

パラレルシーンでは、舞台上を複数のゾーンに区切る「空間分割」が基本手法です。各ゾーンに異なる照明を当て、音響空間を分離することで、同時進行する複数のシーンを明確に識別させます。演者は自身のゾーン内で演技を行いながら、他ゾーンの動きや照明変化に合わせてクロスオーヴァー(場面移動)を行う場合もあります。

演出家は、時間の重層性を視覚化するため、異なる場面の開始タイミングをずらしたり、意図的に重ね合わせたりします。これにより、同じ出来事が視点によって異なる意味合いを持つ様子を観客に示し、物語の深部にあるテーマや感情を浮き彫りにします。

また、観客席の配置を工夫し、観客自身が視点を選択できるようにする場合もあります。移動式の椅子や回転舞台を用いることで、観客が主体的に「どのシーンを見るか」を選択する能動的な鑑賞体験を提供します。



現代の活用事例と今後の展望

現代劇場では、物語の同時多発的展開を描く社会派ドラマやミステリー作品でパラレルシーンが多用されます。たとえば、複数の登場人物が同じ事件に関わる様子を同時進行で見せることで、真相解明の過程を観客に体験させる演出が評価されています。

さらに、デジタル技術を活用したオンライン演劇やハイブリッド公演においては、複数のカメラワークを並列的に配信し、観客が画面上で視点を切り替えられるインタラクティブなパラレルシーンが試みられています。これにより、演劇体験が劇場空間の枠を超えて拡張されつつあります。

将来的には、VR/AR技術と組み合わせることで、観客が仮想空間内を自由に移動しながら並行上演を体感する「没入型パラレルシーン」の発展が期待されます。



まとめ

パラレルシーンは、同一物語を異なる視点や時間軸で同時に上演することで、観客に多層的かつ能動的な物語体験を提供する演出手法です。空間分割や時間操作、マルチメディア活用などの工夫により、演劇の表現領域を広げ続けています。今後もデジタル技術やインタラクティブ演出の導入により、より自由で没入的な観劇体験が実現されることでしょう。

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