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演劇におけるパラレルワールドシアターとは?

舞台・演劇の分野におけるパラレルワールドシアター(ぱられるわーるどしあたー、Parallel World Theater、Theatre du monde parallele)は、複数の「世界設定」を同一の舞台空間上で同時並行的に上演し、観客が視点を切り替えながら物語を再構築する実験的演劇手法です。従来の演劇が単一の舞台装置や物語展開を中心に構成されるのに対し、パラレルワールドシアターでは、異なる時間軸や視点、舞台美術、照明・音響デザインを持ついくつかの「ワールド」を並列に配置し、それぞれが独立しつつも微妙に重なり合うことで、観客の知覚や記憶を揺さぶります。観客は、照明や音響の切り替え、キャラクターの動線、視線誘導などを手がかりに、自らの意思で物語の断片を選択し、つなぎ合わせる能動的な鑑賞体験を得ることができます。この手法は、物語の非線形性や多重解釈を可視化し、舞台芸術を「観察される絵画」から「探求される迷宮」へと転換するアプローチとして、2000年代初頭に欧米の前衛劇場やメディアアート領域で誕生しました。日本では、2010年代後半に小劇場フェスティバルやアートセンターでの実演実験を経て、大学演劇学科や演劇研究所が共同研究を進め、現在では国内外の劇団が試みる先駆的手法として認知されています。演出家、舞台美術家、照明・音響デザイナー、テクニカルスタッフが密接に連携し、各ワールドの細部を作り込むことで、観客の「ここでしか味わえない」体験が実現されるのが特徴です。



パラレルワールドシアターの起源と発展

パラレルワールドシアターのルーツは、1960~70年代の前衛演劇運動にまでさかのぼります。ピーター・ブルックやアンソニー・シェーファーらが提唱した「空間の解体」と「多視点演出」は、ものの見方を多様化する試みでした。1990年代には欧州のコンテンポラリー・ダンスやインスタレーションアートと演劇が融合し、複数の映像チャンネルやサウンドスケープを舞台上に並置する手法が生まれました。2000年代初頭、デジタルプロジェクション技術やリアルタイム映像処理が進化すると、異なる時間軸や視点を同時に映し出す「マルチスクリーン演出」が普及し、これがパラレルワールドシアターの基盤となりました。

日本では2015年頃、ある大学演劇学科の研究プロジェクトが先駆けとなり、「四つの時間帯を同時上演する実験舞台」を発表。以降、東京藝術大学、京都造形芸術大学、早稲田大学などが共同で研究を進め、専門書や論文が執筆されるようになりました。2018年にはアートセンターXにおいて、3つの並行世界を導入した商業劇団による試演が行われ、好評を博しました。以降、小劇場フェスティバルや国際演劇祭でも多数の作品が上演され、理論と実践が相互に進化するエコシステムが形成されています。



手法と構造――多層的物語の設計

パラレルワールドシアターは、複数の「ワールド」を同一空間に配置し、観客が自由に移動して鑑賞できる構造を取ります。各ワールドは異なる舞台装置、照明プラン、音響デザインをまとい、物語の開始点や結末が異なる独立した物語ユニットとして機能します。観客には入場時にワールドマップやガイドプログラムが手渡され、自分の興味に合わせて「巡回ルート」を選択できます。

演出上の要点は、各ワールドで同一のキャラクターやテーマが異なる状況・視点で描かれることにより、観客の中で「物語の全体像」を再構築させる点にあります。たとえば、あるワールドでは主人公の内面を照明と音楽で表現し、別のワールドでは同じシーンを別人物の視点で見せる、といったクロスオーバー演出が用いられます。これにより、観客は能動的に物語を組み立て、自身の理解や解釈を深めることが可能です。

さらに、プロジェクションマッピングやAR技術、スマートフォンアプリを組み合わせ、観客の位置情報や選択に応じてリアルタイムで映像やテキスト情報を付加する取り組みも増えています。こうしたマルチモーダルな情報提示は、演劇を「静止画」から「インタラクティブ体験」へと進化させる鍵となっています。



現代演劇への影響と今後の展望

パラレルワールドシアターは、観客の役割を「受動的な鑑賞者」から能動的な探求者へとアップデートし、演劇と観客の関係を再定義しました。商業演劇やミュージカルでも、幕間に観客がワールド間を移動し結末を探索する企画が登場し、従来にはない没入感と満足度を生んでいます。

また、オンライン上演やVRプラットフォームを活用した仮想劇場では、世界中の観客が地理的制約を超えて並行世界を巡る新たな形態が実験されています。特に、360度映像と立体音響を組み合わせた「デジタルパラレルワールド」は、遠隔鑑賞でも物理的劇場と同等の体験を提供する可能性を秘めています。

今後は、AIによるシナリオ補完や、観客の生体データに基づくリアルタイム演出最適化など、データ駆動型演劇制作ツールの普及が予想されます。さらに、医療や教育分野での応用も期待され、演劇を通じた認知訓練やチームビルディングプログラムとしての新たな価値が生まれることでしょう。



まとめ

パラレルワールドシアターは、複数の物語世界を同時並行的に展開し、観客が自らの視点で物語を再構築する新しい演劇パラダイムです。技術革新と演出の融合により、演劇はさらなる多層性とインタラクティビティを獲得し、観客参加型の未来型パフォーマンスとして重要性を高めています。

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