ビジプリ > 舞台・演劇用語辞典 > 【パントマイムリサイタル】

演劇におけるパントマイムリサイタルとは?

舞台・演劇の分野におけるパントマイムリサイタル(ぱんとまいむりさいたる、Pantomime Recital、Recital de pantomime)とは、台詞を一切用いずに身体表現のみで構成された一連のパフォーマンスを一堂に披露する公演形式を指します。美術の分野においても、無言の彫刻や動く絵画のように、〈身体そのものがアート〉として鑑賞されるインスタレーションやパフォーマンスアートが存在しますが、パントマイムリサイタルはその演劇版と言えるでしょう。演者は一人または数名が、短編のエチュード(場面練習)を複数連続して上演し、観客は身体の動きが生み出す空間の変化、リズム、感情の起伏を視覚的に追体験します。各エチュードはテーマやスタイルが異なり、喜劇的な日常風景の再現から、抽象的な感情の具現化、さらには社会的メッセージを身体だけで伝えるものまで多岐にわたります。こうして、パントマイムリサイタルは〈無声〉を媒介に〈視覚的物語〉を紡ぎ出す、独立した演劇ジャンルとして確立されています。



パントマイムリサイタルの起源と発展

パントマイムリサイタルの概念は、古典的なパントマイム芸から派生しました。19世紀末のサーカス興行や大道芸では、演者が短いパントマイム演目を複数連続して披露する形式が存在しました。20世紀初頭、フランスのマルセル・マルソーは「ビポ」を主人公とする多彩なエチュードを次々に上演し、まさにパントマイムリサイタルの先駆けとなりました。

第二次世界大戦後、ヨーロッパ各地で無声劇が再評価される中、ジャン・ルシェやジャック・ルドルフらが演劇学校でパントマイムを学ぶカリキュラムを整備。学生たちは〈短編〉を複数用意し、定期公演で披露するスタイルを確立しました。これが、〈エチュード連続上演=リサイタル〉として定着し、演劇祭やフェスティバルの人気プログラムとなりました。

日本でも1960?70年代の小劇場運動期にパントマイムカンパニーが結成され、短い無声作品を集めた公演シリーズを開催。多様なテーマを身体で表現することで、言葉に依存しない新たな演劇表現として注目を集めました。



構成と技法の特色

パントマイムリサイタルの基本構成は、複数(通常5?10本程度)のエチュードを「前半」「後半」に分けて上演する形式です。各エチュードは3?10分程度で、テンポや雰囲気を変化させることで、観客の集中力と〈没入度〉を維持します。

演者はリズムの連続性を維持しつつ、身体の質量移動や視線、手の表情を駆使し、無声でも〈空間〉〈物体〉〈感情〉を鮮明に描写します。演出家は照明プランを緻密に設計し、エチュードごとに色や影のコントラストを変えて劇的効果を高めます。音響効果(足音、風の音、小物の扱い音など)も加え、〈無言〉ながら五感に訴える演出を行います。

また、エチュード間には短い〈トランジション〉を挟み、スモークやプロジェクションマッピングで次のテーマへの導入を示す工夫も見られます。これにより、個々のエチュードが独立しつつも、リサイタル全体として一貫した世界観が構築されます。



現代における応用と意義

近年では、パントマイムリサイタルが国際フェスティバルの目玉プログラムとなり、世界各国から多様な身体表現アーティストが参加しています。短編形式は言語の壁を越えるため、異文化間コミュニケーションのツールとしても評価されています。

また、演劇教育の現場では、俳優トレーニングの一環としてリサイタル形式が導入され、身体表現力と構成能力を同時に養う演習プログラムが展開されています。企業のチームビルディングやワークショップでも、無声のエチュード制作を通じた〈身体コミュニケーション〉の訓練として採用されるケースが増えています。

将来的には、VR/AR技術と融合したデジタル・パントマイムリサイタルも登場が予想され、仮想空間と現実空間を交錯させる新たな身体表現の地平が開かれつつあります。



まとめ

パントマイムリサイタルは、言葉を超えた身体表現を連続的に披露することで、観客に視覚的・感覚的な物語体験を提供する公演形式です。エチュードの多様性と構成力、照明・音響を含む総合演出が一体となり、無声のアートとしての演劇を極めます。今後もデジタル技術や国際フェスティバルを通じて、その可能性はますます拡張していくことでしょう。

▶舞台・演劇用語辞典TOPへ戻る

↑ページの上部へ戻る

ビジプリの印刷商品

ビジプリの関連サービス