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演劇におけるビジュアルキャスティングとは?

舞台・演劇の分野におけるビジュアルキャスティング(びじゅあるきゃすてぃんぐ、Visual Casting、Casting visuel)とは、俳優を選定する際に演技力や経歴だけでなく、視覚的印象や舞台上での「見え方」に重点を置くキャスティング手法を指します。美術の分野におけるキャスティング(モデル選定やピース配置に相当)では、絵画やインスタレーションにおいて〈視線誘導〉〈空間構成〉を左右する要素としてモデルの立ち姿やオブジェクトの配置を考慮しますが、ビジュアルキャスティングも同様に、俳優の〈シルエット〉〈動線〉〈衣裳との調和〉〈舞台装置との対比〉が一貫した舞台美の構築に不可欠だと考えます。演出家は脚本の人物像と同時に「どの角度から見ても美しく、かつ物語を語るビジュアル」を備えた俳優を選び、プロダクション全体の統一感と視覚的インパクトを高めます。たとえば、逆光で浮かび上がる長い髪や、シルエットが象徴的なメイク、身長差による空間的構図などを考慮してキャストを決定し、それがポスターや宣伝ビジュアルにも連動することで、作品の世界観を鮮烈に印象づけることができます。



ビジュアルキャスティングの起源と演劇史における位置づけ

演劇におけるキャスティングは当初、俳優の技量や声質、台詞の適性などが重視されていました。しかし、19世紀末のパリ・サロン演劇やミュージカルの黎明期には、俳優自身の〈ビジュアル〉が興行の集客力を左右するとして、舞台ポスターやパンフレットでの見栄えも考慮されるようになりました。

20世紀中盤、ハリウッド映画が“ビジュアルスター”を生み出し、ポストカードや雑誌で“見た目”の人気を集めた影響は舞台界にも波及。演劇プロデューサーは、チケット販売促進のために〈視覚的魅力〉をマーケティング戦略に組み込み、舞台のビジュアルキャスティング手法が確立されました。

日本では高度経済成長期にミュージカルやレビューが流行し、〈歌唱力+ダンス力+ビジュアル〉の三要素を兼ね備えたスターキャストが求められるようになりました。これが近年のオーディションドラマやアイドル出身俳優の舞台起用にもつながっています。



ビジュアルキャスティングの技法と実践

ビジュアルキャスティングを成功させるためには、演出家・美術デザイナー・衣裳デザイナーが密に連携し、舞台全体の「色調」「フォルム」「動線」を共有することが前提です。次に、オーディション段階で俳優の全身シルエットや横顔、立ち姿を撮影し、舞台装置の背景美術パースとあわせてビジュアルプランに当てはめながら選考します。

具体的には、俳優の身長・体格・顔立ち・髪型・肌の色味・衣裳の相性・歩き方・姿勢などを総合的に評価し、舞台上でどの視点から見ても〈物語の象徴性〉を担えるかを判断します。これにより、各シーンでの〈視線誘導〉がスムーズになり、俳優同士のコントラストやグループ構図も美しく決まります。

マーケティング面では、ビジュアルキャスティングにより作成した劇場ポスターや宣材写真が作品の「顔」となり、SNSや広告展開での訴求力を高める効果もあります。



現代の応用事例と今後の展望

近年は、VRシアターや360度舞台など多視点上演が増え、ビジュアルキャスティングの重要性がさらに高まっています。360度どの角度からも印象的に見えるキャスト配置は、従来の正面観劇と異なる視覚体験を提供します。

また、デジタルツールを活用した「バーチャルキャスティング」も試みられています。AIが俳優の顔立ちやシルエットを分析し、舞台美術パースに合うキャスト候補をレコメンドすることで、キャスティングの精度と効率を向上させるサービスが登場しています。

将来的には、ARグラスを用いたリハーサル支援により、俳優自身が舞台セット上に「自分が立った時のビジュアル」をリアルタイムで確認しながら演技できる環境が整い、ビジュアルキャスティングの精緻化がさらに進むことが期待されます。



まとめ

ビジュアルキャスティングは、俳優の演技力だけでなく、その〈視覚的印象〉を最大限に生かすキャスティング手法です。美術デザイン・照明・衣裳と連動し、舞台上の視線誘導と物語の象徴性を高めることで、作品全体の〈ビジュアル・アイデンティティ〉を形成します。今後はデジタル解析やAR技術の導入により、ビジュアルキャスティングはますます高度化し、舞台演劇の新たな魅力を引き出し続けるでしょう。

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