ビジプリ > 舞台・演劇用語辞典 > 【ビジュアルブロック】

演劇におけるビジュアルブロックとは?

舞台・演劇の分野におけるビジュアルブロック(びじゅあるぶろっく、Visual Block、Bloc visuel)とは、舞台上の空間を視覚的に区切り、シーンの構成要素をブロック状に配置・編成することで、物語の展開や感情の高まりを〈視覚のリズム〉として観客に提示する演出手法を指します。美術の領域では、絵画や写真作品の〈構図〉を分割して複数の画面(マルチパネル)として見せる場合に「ブロック化」が用いられ、各パネルが独立したイメージを保ちつつ全体として統一感を生み出します。同様にビジュアルブロックは、舞台セット、照明、映像、俳優の立ち位置や動線、小道具の配置などをあらかじめ「ブロック」として設計し、それぞれを組み合わせたり分割したりすることで、場面転換や内省、緊張と緩和を視覚的に演出します。たとえば、一つの舞台空間を三つの縦長ブロックに分け、左から「回想の場面」「現在の対話」「未来への伏線」を同時に映し出す手法などが典型です。これにより、観客は一目で物語の多層性を把握し、視線の移動を誘導されながら〈視覚的コラージュ〉として体験することが可能となります。



ビジュアルブロックの起源と演劇史的背景

ビジュアルブロックは、20世紀初頭の前衛演劇とモダニズム美術の融合から生まれました。ドイツ表現主義やロシア構成主義では、舞台を複数の〈幾何学的パネル〉に分割し、断片化されたイメージを連続させる実験が行われました。ペトルーシュカやカフカ的寓意劇では、この手法を用いて内的世界と外的世界を同時提示しました。

また、ミュージカル黎明期のアメリカでも、プロローグ・シーン・フィナーレを視覚的色調やセット配置で「三幕構成」のブロックとして強調し、観客を視覚的にナビゲートする演出が確立されました。日本では小劇場運動期に美術家が舞台美術を担当し、複数の〈立ち絵パネル〉を組み合わせたビジュアルブロック上演が話題を呼びました。



ビジュアルブロックの技法と構成原理

ビジュアルブロックの核心は、〈空間のグリッド化〉と〈視線誘導〉にあります。舞台監督はまずグリッドマップを作成し、縦横比、ブロックの数、色調ごとのゾーニングを定めます。次に、俳優の立ち位置、小道具の配置、プロジェクション映像の範囲を各ブロックに割り当て、シーンごとにブロックのオン/オフを切り替えます。

照明デザインでは、各ブロックを別々のライトワークで浮かび上がらせ、色温度や陰影の濃淡を変化させることで、〈ビジュアルリズム〉を刻みます。特にビジュアルブロック間を瞬時に切り替えるクロスフェードやストロボ効果は、観客にシーン転換を感覚的に伝える有効な手法です。

映像演出を組み合わせる場合、プロジェクションマッピングをブロックごとに異なる映像素材で投影し、同一空間内に複数の時間軸や視点を重層的に示すことも可能です。



現代演劇における応用事例と展望

現代のイマーシブシアターでは、観客が会場内を移動しながら複数のビジュアルブロックを自由に体験できる構成が登場しています。これにより、観客は自分の〈視覚的旅〉をカスタマイズし、物語の断片を能動的に集める参加型体験が可能になりました。

さらに、VR/AR演劇の領域では、仮想空間内にビジュアルブロックを重ね、自由に視点を切り替えられる〈ホログラフィックシアター〉が実験中です。舞台上のブロックと仮想空間のブロックが同期し、観客は物理空間と仮想空間を行き来しながら視覚的ストーリーテリングを享受できます。

今後は、AIが観客の視線データを解析してリアルタイムにビジュアルブロックを調整する〈ダイナミックビジュアルブロック〉が実用化される見込みで、演劇のビジュアル演出はさらなる高度化を迎えるでしょう。



まとめ

ビジュアルブロックは、舞台空間を視覚的にグリッド化し、照明・美術・映像・俳優の動線をブロック単位で設計・切り替える演出技法です。20世紀の前衛演劇に端を発し、現代ではイマーシブシアターやVR演劇にも応用されるなど、視覚的ストーリーテリングの新たな地平を切り拓いています。今後、AIやAR技術を取り入れた〈動的ビジュアルブロック〉の登場により、観客の視覚を誘導し続ける舞台美術はますます深化するでしょう。

▶舞台・演劇用語辞典TOPへ戻る

↑ページの上部へ戻る

ビジプリの印刷商品

ビジプリの関連サービス