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演劇におけるファーストリードとは?

舞台・演劇の分野におけるファーストリード(ふぁーすとりーど、First Read、Premiere lecture)は、プロダクションの初期段階で実施される台本の“初読み合わせ”セッションを指します。キャストとクリエイティブチームが一堂に会し、演出家の指示に従って脚本を声に出して読み進めることで、物語の構造や登場人物の関係性、リズム感を共有し、今後の稽古プランを組み立てるための重要な機会です。制作全体の方向性を確認し、演出家や脚本家、俳優陣が作品理解を深め、コミュニケーションを円滑に行うための?歩目として位置づけられています。

読み合わせは、単にセリフを読むだけではなく、登場人物の感情の起伏や場面転換のテンポを実際に声に出して感じ取る場となり、演出家がシーンごとのイメージや演出プランを俳優と共有できることから、その後の稽古効率が大きく向上します。演技経験の浅い俳優や海外作品の翻訳脚本を扱う場合にも、原語と訳語のニュアンスを比較検討することで文化的背景の理解を深める機会となります。

台本の読み合わせには一般的に演出家、脚本家、プロデューサー、主要キャストが参加し、スタッフ陣は客席側で進行を見守ります。演出家からのフィードバックをその場で記録しながら、演出プランやキャスティングに関する意思決定が行われるため、〈演出構築〉におけるキーモーメントとも言えます。

制作側は、ファーストリードの成果をもとに詳細な稽古スケジュールを策定し、技術スタッフは舞台美術や照明、音響のイメージを具体化し始めます。初期段階で全員の共通認識を形成することで、以降の制作過程で生じやすい齟齬を未然に防ぎ、より?貫性のある舞台を創り上げる下地を作り出します。



ファーストリードの歴史的背景

ファーストリードという概念は、20世紀初頭の演劇制作手法の近代化に伴い欧米で確立されました。当時の演劇は稽古場と本番が一体化しており、台本の精査や演出の共有が事前に行われることは稀でした。しかし、シェイクスピア劇の再演やモダンシアターの隆盛とともに、作品クオリティの向上には事前の緻密な読み合わせが不可欠であるとの認識が高まりました。

1940年代以降、ニューヨークのブロードウェイやロンドンのウエストエンドでプロダクションの規模が拡大するとともに、演出家や脚本家、俳優が一堂に会する読み合わせセッションが定例化しました。これが現在のファーストリードの原型であり、初稿段階での意見交換を通じて脚本の改訂を繰り返すワークショップ形式へと発展していきました。



ファーストリードのプロセスと意義

ファーストリードは、〈脚本の声出し〉、〈演出家からの初期フィードバック〉、〈質疑応答〉、〈次回稽古への課題設定〉という大きく4つのフェーズで構成されます。まず俳優が順に役を読み、その後演出家が各シーンにおける意図や演技イメージを説明します。この段階で台本の曖昧点やキャラクター像の齟齬が明確化され、脚本家と協議しながら修正案を検討することもあります。

ファーストリード最大の意義は、関係者全員が「同じ物語世界」を共有することにあります。演出家が思い描くビジョンを俳優へ的確に伝えることで、稽古場における方向性のブレを防ぎ、制作期間を効率化します。また、俳優同士が読み合わせを通じて台詞の間や呼吸を合わせることで、チームワークが醸成され、本番に向けて一体感を高めます。

さらに、制作側スタッフにとっては演出意図を把握し、舞台美術や照明、音響の具体的なプランを早期に立案できる機会となります。特に大規模プロダクションでは、技術部門と演出部門の連携が鍵となるため、ファーストリードを通じて総合的な演出デザインを共有することが成功の要です。



現代におけるファーストリードの活用と変遷

近年では、デジタルツールを活用したオンラインファーストリードも増加しています。遠隔地にいる俳優やスタッフがビデオ会議システムを通じて読み合わせに参加し、リアルタイムでコメントを共有する手法が取り入れられています。この方式により、グローバルキャストを起用した国際共同制作が可能となり、演劇の多様性がさらに広がっています。

また、ワークショップ形式の読み合わせでは、演出家自身が俳優とともに台本を改訂しながら作品を創り上げるケースが増えており、伝統的な一方向の指示型から、双方向のクリエイティブセッションへと変化しています。これにより、俳優の創造性がより強く反映され、作品の独自性や深みが向上しています。

さらに、教育機関や演劇ワークショップでもファーストリードが導入されており、学生たちが実践的に演出・演技のプロセスを体験する教育プログラムとして定着しています。これにより、次世代の演劇人材育成においても欠かせないメソッドとして評価されています。



まとめ

ファーストリードは、演出家・脚本家・俳優・スタッフが初めて台本を共有し、物語世界の認識を一致させるための重要なプロセスです。事前の読み合わせを通じてコミュニケーションを深め、制作効率と作品クオリティを飛躍的に向上させる役割を果たします。今後もデジタル技術やワークショップ形式の発展により、多様な形態での活用が期待されるでしょう。

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