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演劇におけるフィールドエフェクトとは?

舞台・演劇の分野におけるフィールドエフェクト(ふぃーるどえふぇくと、Field Effect、Effet de champ)とは、舞台空間全体を取り巻く〈空気感〉や〈環境演出〉を照明・音響・映像・舞台装置・特殊効果の複合技術によって再現し、観客が劇中世界に没入するための〈場の力〉を創出する演出手法です。美術の分野において「フィールド」は、インスタレーションや映像作品で空間全体を展示体験の一部とみなす手法を意味しますが、舞台ではこれを拡張し、しばしばスモークマシンによる霧、風を起こすファン機材、香り(フォググリースやエアゾール)、立体音響スピーカーによる環境音、さらには可動セットやプロジェクションマッピングを組み合わせて〈自然現象〉〈都市空間〉〈夢幻の庭〉など多様な「場」を創り上げます。演出家は脚本の世界観に応じて「フィールドエフェクトマップ」を設計し、シーンごとに観客の五感をトータルで刺激することで、単なるストーリーテリングを超えた〈体験型演劇〉を実現します。



起源と概念の形成

フィールドエフェクトの源流は、19世紀末のオペラ演出で用いられた〈水のせり上げ〉〈火の特効〉などの大掛かりな特殊効果にさかのぼります。当時は演出の“見せ場”としてこれらを設置しましたが、20世紀後半になると、演劇における〈場そのもの〉のリアルな再現と感情への介入を目的として、環境演出技術が体系化されるようになりました。

1960~70年代のアヴァンギャルド演劇運動では、リチャード・シェクナーやピーター・ブルックらが〈劇場が舞台に〉という思想を提唱し、観客席を含む全空間を演出対象とするコンセプトが生まれました。これが後のフィールドエフェクトへと発展し、演劇を〈場所芸術〉〈インスタレーション〉の領域と重ねる試みが行われました。



技術要素と演出実践

フィールドエフェクトは、大きく分けて〈空気感演出〉〈音響空間〉〈映像/照明連動〉〈舞台装置〉〈化学的効果〉の五要素に分類されます。

まず、空気感演出では、スモークマシンやドライアイス、風機を用い、光の帯を可視化したり、風圧で衣裳を揺らしたりして、観客に〈場所の空気〉を感じさせます。

次に、音響空間は多方向性スピーカーやTactile Bassを導入し、水滴音や都市音、遠雷の轟きなどを立体的に配置し、聴覚だけでなく身体の振動を通じて〈場〉を体感させます。

照明と映像は、プロジェクションマッピングやレーザー、LEDパネルを舞台装置とシンクロさせ、動的に変化する背景映像と照明色彩を重ね合わせ、場面の〈時間経過〉や〈感情の起伏〉を〈視覚的フィールド〉として表現します。

さらに、可動セットやサウンドスケープと連動した舞台装置の機械仕掛けにより、床が沈み込む、壁が回転するなどの変化を起こし、物理的に空間を書き換える手法が用いられます。

最後に、香りや温度変化、霧化した香料による〈化学的効果〉を加えることで、観客の嗅覚・体感温度にも働きかけ、五感を総動員した没入体験を完成させます。



現代事例と今後の展望

近年、〈フィールドエフェクト演劇〉は国際フェスティバルの目玉となり、ヨーロッパのサイトスペシフィック演劇やアジアのイマーシブシアターで多く採用されています。ロンドンの〈マインド・ゲームス〉や東京の〈空気芸術祭〉などでは、美術館や廃工場を会場にフィールドエフェクトをフル活用し、観客が場内を探索する体験型上演が人気です。

さらに、VR/AR技術の発展に伴い、リアル空間でのフィールドエフェクトと仮想空間の融合が進んでいます。観客のスマートグラスに架空の風景やエフェクトを重ねることで、物理的会場とデジタル・フィールドが連動し、何層にも重なる〈複合フィールド〉が創出されます。

将来的には、AIが観客の動線や表情をリアルタイム分析し、フィールドエフェクトを自動調整する〈インタラクティブ・フィールド〉の実現が期待されており、舞台空間はますます〈生きた風景〉へと進化していくでしょう。



まとめ

フィールドエフェクトは、舞台を〈場所芸術〉として捉え、照明・音響・映像・装置・香り・風など多種多様な技術を組み合わせた総合的没入演出手法です。アヴァンギャルド演劇の思想を受け継ぎ、現代ではVR/ARやAI連携を通じてさらに高度化。観客は五感を通じて〈劇中世界〉を体験し、単なる観劇を超えた〈場所としての物語〉を享受します。

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