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演劇におけるフォーカスフレーミングとは?

舞台・演劇の分野におけるフォーカスフレーミング(ふぉーかすふれーみんぐ、Focus Framing、Cadre focalise)とは、舞台上における〈視覚的な枠〉を光や装置、俳優の立ち位置などで意図的に作り出し、観客の視線を特定の〈演劇空間の切り取り〉へ誘導する演出技法です。美術では、絵画や写真の構図を額縁やライティングで強調し、鑑賞者に“見るべき領域”を提示する〈フレーミング〉がありますが、舞台においても同様に、照明の重ね掛けや舞台装置の開口配置、俳優のフォーメーション(隊形)を通じて〈見せ場〉がフレーム内に収まるよう設計します。これにより、舞台全体を“一枚の絵”のように捉えつつ、演劇的クライマックスや象徴的瞬間を直感的に際立たせることが可能となります。



フォーカスフレーミングの起源と歴史

舞台芸術におけるフレーミングの思想は、古代ギリシア劇場の円形空間にまでさかのぼることができます。演じ手と観客を隔てるプロセニアム(額縁状の舞台枠)は、中世ヨーロッパの宗教劇で〈神聖な場〉を区切る役割を果たし、ルネサンス期には絵画的遠近法を舞台美術へ応用する試みが始まりました。

20世紀に入ると、ストラヴィンスキーらの現代音楽演奏会で〈舞台の枠組み〉を否定し、空間全体を演奏領域と捉える動きが起こりましたが、一方でピーター・ブルックらモダン演出家は〈絵画的構図〉を復権させ、照明と俳優の動きを用いて〈舞台内フレーム〉を動的に切り替えるフォーカスフレーミングを体系化しました。



技法と演出上の工夫

フォーカスフレーミングには、主に三つの要素があります。まず、照明フレーミング。スポットライトやエッジライトを組み合わせて、舞台上の特定領域だけを照らし出すことで“光の額縁”を作ります。次に、舞台装置フレーミング。セトルやフラット、開口パネルを配置し、俳優や小道具を“窓”の中に収めることで視覚的焦点を形成します。最後に、動線フレーミング。俳優のフォーメーションをシーンごとに変化させ、列や三角形、円形などの“人の枠”を作り、観客の視線を誘導します。

演出家はリハーサル段階で、絵画の構図に見立てた舞台プラン図を作成し、各フレーミング要素の重なり具合を検証します。舞台監督は〈フレーム番号〉を台本に書き込み、照明・美術・俳優へ統一的に伝達することで、劇場ごとの再現性を確保します。



現代演劇における応用事例と展望

近年、小劇場から大劇場まで、プロジェクションマッピングと組み合わせた〈デジタル・フレーミング〉が流行し、映像で作った“仮想の窓”に俳優をはめ込む演出が試みられています。また、VRシアターでは観客視点が自由に動く中で〈フォーカスフレーミング〉を適用するために、仮想空間上に動的な枠組みガイドを可視化する研究も進んでいます。

将来的には、観客の視線トラッキング情報をリアルタイムに照明制御へフィードバックし、各個人の視線に合わせて枠を再構築する〈パーソナライズド・フォーカスフレーミング〉が実用化される可能性があります。これにより、同じ舞台を見ても人それぞれ異なる“絵画的体験”が提供される新時代の演劇が始まるでしょう。



まとめ

フォーカスフレーミングは、照明・装置・動線を駆使して〈舞台上の絵画的枠〉を作り、観客の視線を意図的に導く演出手法です。古代ギリシア劇場の枠組みからルネサンスの遠近法を経て、20世紀のモダン演出家によって体系化されました。現代ではプロジェクションマッピングやVR、AI視線追跡との融合が進み、今後は個人化された視覚体験を提供する演劇技術へと進化していくことでしょう。

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