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演劇におけるフラッシュバックとは?

舞台・演劇の分野におけるフラッシュバック(ふらっしゅばっく、Flashback、Retour en arriere)とは、現在進行中の物語の時制を一時的に過去へ遡り、登場人物の過去の出来事や記憶を観客に映像的・演技的に再現する手法です。物語の因果関係やキャラクターの背景を提示することで、現在の葛藤や行動の動機を深く理解させる効果があります。

演劇でのフラッシュバックは、映画における編集技法に由来しますが、舞台では舞台装置の回転、照明の色調切り替え、音響効果の変化、俳優の動線やセリフ回しによって視覚的・聴覚的に過去の場面へ観客を誘います。たとえば、照明が青みを帯びたトーンに変わり、古びた家具や映像投影が出現し、俳優の衣装やヘアメイクも簡易的に変化させることで、一瞬にして〈過去〉のシーンが立ち上がります。

この手法は20世紀後半のモダンシアター運動で普及し、シェイクスピア作品の現代劇再構成や新興戯曲で広く用いられるようになりました。演出家は脚本段階でフラッシュバックの位置と頻度を設計し、演技指導、照明、音響、美術の各部門が緻密に連携して効果を高めます。観客は現在と過去を往還しながら物語の全体像を把握し、登場人物の内面に深い共感を抱くことができるのです。



フラッシュバックの起源と演劇史における発展

フラッシュバック技法は、19世紀末から20世紀初頭の文学や映画で用いられ始め、1960年代以降の欧米演劇に導入されました。特にアーサー・ミラーやテネシー・ウィリアムズの戯曲では、舞台上での記憶の回想が物語構造を複層化し、登場人物の心理を立体的に描出する手法として定着しました。

日本においても1960年代の前衛演劇運動で実験的に採用され、1980年代には大劇場の商業演劇にも取り入れられるようになりました。フラッシュバックの効果は、心理的リアリズムを超えた〈時間の非線形性〉を観客に体感させる点にあります。



舞台演出における技術的要素と実践方法

フラッシュバックを実現するには、〈照明〉〈音響〉〈舞台装置〉〈映像投影〉〈演技〉の五要素が統合される必要があります。照明デザイナーは色温度を変化させ、過去シーンを示すブルーやセピア調を用います。音響ではエコーやリバーブを追加し、記憶の曖昧さや距離感を表現します。

舞台装置は回転舞台や可動セットを利用し、背景を瞬時に切り替えます。映像プロジェクターがスライドや短い映像クリップを投影することも多く、過去の場面を視覚的に補強します。俳優は視線や動きを〈現在〉と〈過去〉で明確に変化させ、衣装や小道具の差し替えも瞬時に行えるよう訓練されます。

これらを緻密にキューシート化し、演出家がリハーサルで各部門とタイミングを調整することで、フラッシュバックは観客に自然に受け入れられる演出となります。



現代演劇における応用事例と今後の可能性

最近では、VRやARを併用したインタラクティブ演劇で、観客自身が過去シーンを切り替えられるフラッシュバック体験が開発されています。スマートフォンやヘッドセットを通じて個別に過去の場面を呼び出し、物語を多視点的に楽しむ試みです。

また、AIを活用した自動照明・音響切り替えシステムにより、フラッシュバックのキューをセンサーで検出してリアルタイムに制御する技術も研究されています。これにより、演出家や技術スタッフの負担を軽減しつつ、よりダイナミックな時間操作演出が可能となるでしょう。



まとめ

フラッシュバックは、舞台上で現在進行の物語を一時的に過去に遡らせ、登場人物の背景や動機を多層的に描出する手法です。照明、音響、装置、映像、演技の五要素が融合し、観客に時間の非線形性を体験させます。現代ではVR/ARやAI技術との組み合わせにより、より没入的でインタラクティブなフラッシュバック演出が実現しつつあり、今後も可能性は大いに広がるでしょう。

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