ビジプリ > 舞台・演劇用語辞典 > 【フリージング】

演劇におけるフリージングとは?

舞台・演劇の分野におけるフリージング(ふりーじんぐ、Freezing、Theatre du Freezing)は、舞台上で俳優が意図的に動きを停止させ、一瞬の静止画のような視覚効果を生み出す演出手法です。台詞や動作、照明、音響などのあらゆる要素を瞬時に“凍結”させることで、観客の視線を特定の場面や感情に集中させ、物語の重要な瞬間や内面の葛藤、象徴的なビジュアルイメージを強烈に印象付けます。演出家はフリージングをクライマックスや転換点、あるいはプロローグやエピローグの演出にも用い、時空間の停止感を借りてテーマ性を深めることができます。技法自体は即興的に発展したもので、起源はヨーロッパの前衛演劇やモダンダンスにさかのぼり、20世紀後半から日本の小劇場演劇や演劇ワークショップに広がりました。俳優には動きを止めるための高い身体制御と内的集中力が要求され、照明技師や音響オペレーターとの綿密なタイミング調整が必要です。近年ではデジタル技術を用いたスローモーション演出や、舞台映像との融合によって、従来の“静止”に新たな次元を加える試みも行われています。フリージングは、物理的な時間の停止を擬似的に体験させることで、観客に深い余韻と思索の場を提供し、演劇表現の幅を大きく広げる手法です。



フリージングの起源と歴史的背景

フリージングの概念は、1920年代から1930年代にかけてヨーロッパで展開された前衛演劇や舞踏運動にまでさかのぼります。特に、ベルリン・アヴァンギャルド劇場やロシア構成主義の作品において、俳優が演技の途中で急に静止し、観客の意識を劇中の“エッセンス”に集中させる手法が試みられました。しかし、当時はあくまで即興的な表現の一部として扱われ、技法として明確に定義されるには至っていませんでした。

1960年代以降、日本では劇団や演劇教育機関のワークショップで、俳優の身体意識を高めるトレーニングとしてフリージングが取り入れられるようになりました。小劇場運動の台頭により、限られた空間と予算の中でインパクトを残す演出が求められ、フリージングはその手段として急速に普及しました。

1990年代には、照明や音響技術の発展に伴い、瞬間的な“凍結”と“再開”のギャップを強調する演出が多くのプロダクションで採用され、現代演劇の定番テクニックとなりました。



技法の具体的手法と演出上のポイント

フリージングを効果的に機能させるためには、まず俳優が瞬間的に動きを完全に停止する身体制御能力を身につける必要があります。ワークショップでは、呼吸をコントロールしながら筋肉を固め、目線や表情まで“停止”させる練習が行われます。

演出家は台本のクライマックスや象徴的シーンを選定し、照明と音響のタイミングを厳密に合わせます。照明は一瞬で暗転させるか、スポットを当て続けるかを判断し、音響は凍結直前にフェードアウトさせるか、逆に強調音を残すかで表現のニュアンスを変えます。

舞台上では、複数の俳優が階層的にフリージングを行うことで、視点移動を誘導する手法もあります。観客の視線を誘導するために、重要な人物やオブジェクトのみが静止せず動き続ける演出も用いられます。



現代的応用と技術融合、そして課題

近年は、高速カメラで撮影した映像を舞台背面に投影し、フリージング中の“静止画”をスローモーションで再生する演出が登場しています。これにより、観客は“静”と“動”の狭間で深い時間体験をすることができます。

また、VRやAR技術を用いて観客自身がフリージング空間を体験するインタラクティブ演劇も試行されており、フリージングは物理的な舞台からデジタル空間へと領域を広げつつあります。一方で、俳優への身体的負担や演出スタッフとの緻密な連携が必要な点、技術導入コストが高い点などの課題も残っています。

今後は、軽量センサーを用いたリアルタイムモーションキャプチャとAI制御による照明・音響自動調整システムが開発され、演出の再現性と俳優の負担軽減が図られることが期待されます。



まとめ

フリージングは、瞬間的な“凍結”によって観客の意識を特定の情景や感情に集中させる革新的演出手法です。身体制御と技術連携により演劇表現の幅を拡大し、今後もデジタル技術との融合によって新たな可能性が拓かれていくでしょう。

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