舞台・演劇におけるアフターリーディングとは?
美術の分野におけるアフターリーディング(あふたーりーでぃんぐ、After Reading、Lecture après lecture)は、演劇や朗読劇などにおいて、作品の朗読やプレゼンテーションの終了後に行われる対話・解説・ディスカッションのことを指します。これは、テキストの内容や演出の意図を深掘りし、観客と創作者のあいだに豊かな理解と対話の場を創出するための文化的プログラムとして近年広く活用されています。
特にアフターリーディングは、戯曲リーディングや新作ドラマリーディング、ワーク・イン・プログレス(制作途上作品)などの場面で重要な役割を果たします。演者が台本を読み終えたあと、演出家、脚本家、出演者、時にはゲストの批評家や研究者が登壇し、作品に込めたテーマや制作の背景、形式的特徴について語ります。
英語では“After Reading”、フランス語では“Lecture après lecture”または“Discussion post-lecture”と表記されるこの形式は、観客の受容を深め、舞台芸術における文芸性や思考性を引き出す知的空間として注目されています。また、観客からの質疑応答や対話が交わされることも多く、劇場における観客参加型プログラムの一種としても位置づけられます。
このようにアフターリーディングは、単なる補足的解説にとどまらず、「作品を読む」という行為の“その後”を開き、受け手が作品を再読し直すための回路を提供する重要なアートコミュニケーションの手段となっています。
アフターリーディングの起源と背景
アフターリーディングという形式が明確に確立されたのは、演劇作品の朗読上演が独立したパフォーマンスとして成立した20世紀後半以降のこととされています。
特に1970年代から欧米を中心に進んだ「リーディング劇」の潮流と並行して、作品発表の一環として制作者・演者と観客が意見交換を行う場が自然と設けられるようになりました。演劇祭や戯曲開発プログラム(Play Development Program)、劇作家育成プロジェクトなどにおいて、テキストを評価・検討するための公開対話の場が形式化されていったのです。
この文化はやがてフランスやドイツの公共劇場、アメリカのリージョナルシアターに広がり、日本でも2000年代以降の現代戯曲の上演機会の増加に伴い、「朗読+対話」の形式としてのアフターリーディングが徐々に普及していきました。
なかでも「新作戯曲の発表会」や「翻訳戯曲の紹介イベント」、文学座や青年団といった劇団によるドラマリーディング、国際的な戯曲フェスティバルなどでは、アフターリーディングが標準的に採用されており、観客とともに戯曲の言語的魅力を探る場として機能しています。
アフターリーディングの構成と機能
アフターリーディングは、リーディング終了後の時間を活用して、テキストの解釈や演出意図、観客の受容などを立体的に浮かび上がらせるための構成を取ります。一般的な流れは以下の通りです。
- モデレーター(進行役)の導入:演出家や司会者が登場し、対話の進行を務める。
- 制作者による解説:脚本家、演出家、翻訳家などが作品のテーマや執筆背景、文体的特徴を語る。
- 出演者のコメント:リーディングに際しての工夫や読み取り方、感情の変化などを共有。
- 観客からの質問・意見:会場や配信コメントを通じて観客とやり取りが行われる。
このようにアフターリーディングは、創作者・演者・観客がフラットな関係で意見を交わす場として設計されており、演劇的な完成形とは異なる開かれた創作の過程に観客を巻き込むことが可能となります。
特に重要なのは、「観客の受容」が作品解釈に影響を与える双方向的なプロセスが生まれることです。これは、演劇を「完成された芸術作品」としてではなく、「常に再考・再演・再構成可能なテキスト」として捉える視点と重なります。
現代におけるアフターリーディングの展開と意義
現代の舞台芸術において、アフターリーディングは以下のような文脈で活用されています。
- 新作戯曲の初公開における理解促進の場
- 翻訳戯曲の紹介における文化的背景の説明
- 教育機関での演劇ワークショップやリーディング授業の一部
- 演劇フェスティバルでの国際的比較と文化交流
- オンライン・リーディング配信後のリアルタイム対話
特に、コロナ禍以降はオンラインによるドラマリーディングの需要が高まり、それに伴ってアフターリーディングもZoomやYouTubeライブなどでの実施が急増しました。これにより、地理的・身体的な制限を超えて観客が戯曲にアクセスし、対話に参加できる環境が整備されつつあります。
また、教育・育成的観点からも、学生や若手劇作家にとってアフターリーディングは「観客の視点を得る実践的な場」として極めて重要です。批評家や研究者をゲストに招いた形式では、作品に対する批判的思考力や言語化能力を養う場としての役割も担っています。
このように、アフターリーディングは、舞台芸術の知的コミュニケーション、教育、創作支援の三本柱を繋ぐ装置として、今後ますますその活用範囲を広げていくと考えられます。
まとめ
アフターリーディングは、戯曲の朗読やリーディング上演の後に行われる対話・解説・議論の場であり、創作者と観客が作品を再解釈し、より深く共有するための貴重な機会です。
その起源は欧米の戯曲開発文化にあり、日本でも2000年代以降に普及し、リーディング劇の一部として定着してきました。現代ではオンライン配信との連携や教育現場での応用など、形式や目的が広がっており、単なる補助的プログラムを超えて、作品と観客の関係性を再構築する重要な文化的実践として位置づけられています。
今後も、アフターリーディングは舞台芸術の知的交流と創造性を支える要として、演劇の発展と社会とのつながりを深める役割を果たし続けることでしょう。