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演劇におけるフルエモーションライティングとは?

舞台・演劇の分野におけるフルエモーションライティング(ふるえもーしょんらいてぃんぐ、Full Emotion Lighting、Eclairage pleine emotion)とは、俳優の感情の高まりやドラマティックな瞬間を、照明デザインによって最大限に増幅・表現する照明演出技法です。従来の“場面を照らす”役割を超え、色彩・明度・コントラスト・フォーカス・動きなどを駆使して、舞台上の〈感情の波〉を視覚化し、観客の感情を共振させることを目的とします。

Full Emotion Lightingは、英語圏の音楽フェスティバルやコンサートライトショーの演出手法と演劇照明の融合として2000年代初頭に登場しました。演出家と照明デザイナーは、脚本や演技プランの感情曲線をもとに〈照明キューシート〉を構築し、重要なセリフや感情のクライマックスに合わせて照明のフェード・フラッシュ・カラーチェンジ・ムービングライトのモーションを重ねます。これにより、観客は音響と俳優の声・身体表現と一体となった〈視覚的カタルシス〉を体験します。

日本でも近年、大規模ミュージカルやダンスシアターを中心に採用が拡大。LEDマトリクスや激変ショートストロボを用いた“ブリンクエフェクト”や、感情の揺らぎをブルー→レッド→ホワイトへと段階的に移ろわせる“カラーグラデュエーション”など、多彩なテクニックが開発されています。リハーサル段階から役者と照明スタッフが呼吸を合わせ、一体感を築くことで、本番での鮮烈な〈光のドラマ〉を確実に再現します。



起源と発展

フルエモーションライティングは、1980年代の音楽コンサートライトショーに端を発し、1990年代のブロードウェイ照明デザインが取り入れた“ムービングライトと音楽の同期”技術が演劇分野に応用されたことから始まりました。2000年代初頭には、演劇専用のLED照明システムが普及し、色彩・ダイナミクスを自在に制御できるようになったことで、照明が“静的装置”から“感情を紡ぐ演出ツール”へと進化しました。

日本では2005年頃、国際共同制作ミュージカルでLEDムービングライトを活用した演出が話題となり、その後、商業演劇やダンスシアターにも広がりました。特に、演出家・照明家ペアによる共同創造ワークショップが普及し、照明演出が脚本と演技に不可欠な“第三の役者”として認識されるに至りました。



技術要素と実践手法

フルエモーションライティングの主な要素は、〈LEDムービングヘッド〉〈カラーグラデュエーション〉〈ストロボ/ブリンクエフェクト〉〈フォーカスシフト〉〈照明キュー同期〉の五つです。演出家が提供する感情曲線をもとに、照明デザイナーは〈キューシート〉を構築し、俳優のセリフや音楽のビートに合わせて照明をプログラムします。

たとえばクライマックスでは、ムービングライトの動きを速め、色を一気にホワイトへフェードし、ストロボを短く高速に発光させる“ライトブレイク”を実行。これにより〈感情の爆発〉を視覚化します。一方、穏やかな回想シーンではブルーやパープルの微弱なムービンググラデュエーションを用い、〈静かな余韻〉を照明で演出します。共振を生むには、演者と照明スタッフの密なコミュニケーションが欠かせません。



現代の応用例と未来展望

最近では、体感型演劇作品で観客席にも照明を配置し、観客自体を“光の演出空間”に巻き込む実験的公演が見られます。また、VR空間でリアルタイムに照明を変化させる“バーチャル・フルエモーションライティング”も研究中で、遠隔鑑賞者にも劇場の感情波を伝える試みが進んでいます。

将来的には、AIによる感情解析を舞台照明にフィードバックし、俳優の声のトーンや観客のリアクションに応じて照明エフェクトを自動生成する“インテリジェント・フルエモーションライティング”が実用化される見込みです。これにより、照明はさらにダイナミックかつパーソナルな感情体験を提供する演出装置へと進化するでしょう。



まとめ

フルエモーションライティングは、照明を“感情を紡ぐ演出ツール”へ昇華させる手法です。LEDムービングライトやカラーグラデュエーション、ストロボ等を駆使し、俳優の感情曲線に合わせて照明を変化させることで、観客に共振的な〈光のドラマ〉を体験させます。起源はコンサートライトショーにあり、演劇分野で独自進化を遂げました。今後はVRやAI制御との融合によって、より個別化・没入型の感情体験を提供する未来が期待されます。

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