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演劇におけるフルキャストリハーサルとは?

舞台・演劇の分野におけるフルキャストリハーサル(ふるきゃすとりはーさる、Full-Cast Rehearsal、Repetition generale)は、本番と同じキャスト全員、スタッフ全員が参加して、最終的な上演を通し稽古する舞台リハーサルの一形態です。通常のシーンごとの通し稽古(テクニカルリハーサル)と異なり、衣裳、照明、音響、美術、特殊効果など〈本番相当〉の要素すべてを実際に通して確認します。俳優は衣裳を着用し、小道具を扱い、音楽や効果音と同期した動きを行い、スタッフは舞台転換や照明操作、音響キューを本番と同様のタイミングで実行します。

このリハーサルは、19世紀後半の欧米オペラから発祥した習慣に端を発し、20世紀初頭に演劇界にも広まりました。長時間にわたる全体通し稽古を通じて、俳優は衣裳の着崩れや動きの制限を実感し、演出家は舞台美術の見栄えや動線を最終調整し、技術スタッフは転換時間や安全対策を確認します。

日本では戦後の大劇団時代から導入され、近年は小規模公演でも簡易版としてフルキャストリハーサルを実施する例が増えています。本番前日に必ず行われる「ゲネプロ(ゲネラルプロダクション)」もフルキャストリハーサルの一種であり、観客を一部招いて〈最終チェック〉を兼ねることがあります。



歴史的背景と発展

フルキャストリハーサルは、19世紀イタリア・オペラハウスで始まった〈リハーサルトータル〉が起源です。当時は舞台美術やオーケストラの演奏も含めた〈本番同様〉の総合リハーサルが習慣化しており、これが演劇界に波及しました。20世紀中盤には、ブロードウェイやウエストエンドのプロダクションにおいても標準的な工程となり、日本でも大劇場作品で取り入れられました。

戦後の日本演劇界では、劇団四季や新国立劇場などがフルキャストリハーサルを厳密に実施し、その成果が高い舞台美術・照明・音響の完成度につながりました。1990年代以降、小劇場運動の中で簡易版の「通し稽古+衣裳チェック」を行う手法が採用され、多様な規模の公演にも広がりました。



実施手順と役割分担

フルキャストリハーサルは、まず技術スタッフが舞台装置、照明、音響、小道具を〈本番仕様〉にセットアップします。続いて俳優が衣裳に着替えて舞台袖に集合し、演出家のキューで〈場面転換〉から通し稽古を開始します。

この間、舞台監督はキューシートに基づきタイムコードを計測し、照明オペレーターや音響オペレーターに正確な指示を出します。俳優は実際に衣裳の〈動きにくさ〉や小道具の〈扱いづらさ〉を検証し、演出家は必要に応じて動線や台詞のタイミングを微修正します。技術スタッフは、転換時間のオーバーや安全確認を行い、正確な本番オペレーションを確立します。

ゲネプロでは、観客を少人数招き、実際の観劇環境に近い状態で照明の見栄えや音響バランスを最終チェックします。観客の反応を元に微調整を加え、本番当日の〈品質保証〉を行います。



効果と留意点、今後の展望

フルキャストリハーサルを行うことで、俳優は衣裳やセットへの〈慣れ〉を得て、演出家は舞台全体の流れを俯瞰し、技術スタッフは〈安全〉と〈精度〉を高めることができます。一方で、長時間の稽古は体力的負担やスケジュール調整の課題を伴うため、小劇場では短縮版を導入する工夫が行われています。

将来的には、VRや3Dシミュレーション技術を活用し、稽古場にいながら本番の舞台を仮想空間で再現する〈デジタルフルキャストリハーサル〉が実用化される見込みです。これにより、効率的な準備とコスト削減が可能になり、演劇の質をさらに向上させることが期待されます。



まとめ

フルキャストリハーサルは、俳優・スタッフ全員が本番同様に通し稽古を行う最終確認工程です。19世紀オペラに由来し、日本では大劇場から小劇場まで広く導入されました。衣裳やセット、小道具、照明、音響を本番仕様に揃え、演出家、舞台監督、技術スタッフが連携して〈正確〉かつ〈安全〉な上演を実現します。今後はVRシミュレーションによる効率化が演劇界に新しい可能性をもたらすでしょう。

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