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舞台・演劇におけるアプローチとは?

美術の分野におけるアプローチ(あぷろーち、Approach、Approche)は、舞台・演劇において「演技・演出・作品解釈に向かうための取り組み方」や「俳優や演出家が作品と向き合う姿勢や方法論」を指す概念です。物理的な動線や演出設計における空間的な進行だけでなく、役作りや演出構成といった創作過程の思考的・哲学的アプローチも含まれる幅広い用語として使われています。

アプローチという言葉は、英語の「approach」(近づくこと、取り組み方)に由来し、演劇の現場では主に以下の2つの意味で用いられます。第一に、俳優が台本や登場人物に向き合う際の分析手法や役への入り方、第二に、演出家や劇作家が作品にどう向き合うかという視点や方法論です。これにより「スタニスラフスキー的アプローチ」や「メソッドアクティング的アプローチ」など、技法や理論を表す文脈でも登場します。

また、現代演劇では身体・空間・テクノロジーとの融合によって演出のアプローチが多様化しており、演劇の創作における“思考と選択の道筋”として、アプローチという言葉の重要性が年々高まっています。



アプローチの歴史と概念の形成

演劇における「アプローチ」という語の概念が明確に用いられるようになったのは20世紀初頭、ロシアの演出家コンスタンチン・スタニスラフスキーの演技理論が広まった頃からとされています。彼は演技を科学的・心理学的に分析し、「感情記憶」や「もしも(magic if)」という概念を用いながら、俳優がどのように役に接近(approach)するかを体系化しました。

この流れはアメリカの演劇界にも影響を与え、1940年代以降「メソッドアクティング(Method Acting)」が誕生。リース・ストラスバーグやステラ・アドラーらによって、演技における多様なアプローチが発展し、俳優の「内的真実」へのアプローチ方法が重視されるようになりました。

一方で、同時期のヨーロッパではベルトルト・ブレヒトの異化効果を用いた政治的演劇や、ジェルジ・グロトフスキの「貧しい演劇」など、演劇構造全体へのラディカルなアプローチも台頭しました。これらは演出や演劇の構成における「思考の方法」としてのアプローチの可能性を広げたのです。



現代におけるアプローチの多様性

現代演劇では、アプローチは単に技法や手段を表すだけでなく、「どう作品を解釈し、いかに観客と共有するか」という創作理念に直結するものとなっています。演技・演出・美術・音響・映像・テクノロジーなど、あらゆる舞台構成要素において、それぞれ独自のアプローチが存在します。

具体的なアプローチの例として、次のようなものが挙げられます:

  • テキストアプローチ:脚本の言葉に重点を置き、言語的な分析や感情表現に集中する方法。
  • 身体的アプローチ:役の感情を身体から掘り起こす身体訓練に基づいた演技法(例:ジャック・ルコックの身体演劇)。
  • 構造的アプローチ:作品全体のリズム、構成、シーンの意味構造を重視した演出設計。
  • 即興的アプローチ:リハーサルでの即興を通して役や演出を深める方法。教育演劇にも応用されています。

これらは演出家・俳優・スタッフの創作観に応じて選ばれ、作品によって複数のアプローチを組み合わせて使用されることも珍しくありません。

また、近年では観客の参加型演劇(インタラクティブ・シアター)や、テクノロジーを使ったインスタレーション型演劇など、新しいアプローチの開発も盛んに行われています。



教育と創作におけるアプローチの意義

アプローチという概念は、演劇教育やワークショップの場面においても極めて重要な役割を果たしています。なぜなら、演劇という創作活動は「正解のない問い」に対して、自らの視点と感性で答えを導き出す作業だからです。そのため、どのような視点で向き合うか(=どのアプローチを採るか)が学びの核になります。

たとえば、学生がある台本を演じる際、感情から入るか、行動から入るか、社会背景から入るか、というアプローチの違いによって演技の表現が大きく変化します。これは、芸術的な創造力や批判的思考力を育むプロセスでもあるのです。

また、舞台創作においては、演出家が作品全体の方向性を決定する際に、アプローチを明確に打ち出すことがプロダクションの骨格を作る鍵となります。作品に対してどのようなテーマ性を提示するのか、観客に何を問いかけるのか、その手法を選び取ることが演出家にとっての「戦略的思考」となります。

このようにアプローチは、演劇創作を支える“思考の枠組み”であり、それ自体が創造の出発点として機能しているのです。



まとめ

アプローチとは、演劇における創作・表現・解釈の過程において、どのように作品や役柄、演出に取り組むかという「方法」や「姿勢」を指す広義の概念です。

歴史的にはスタニスラフスキーやメソッド演技に端を発し、現代においては身体表現、即興、構造分析、テクノロジーの導入など、多様なアプローチが併存しています。演劇教育や創作現場においても、この概念は創造力や批評力を支える理論的・実践的な土台となっており、今後も多様化・深化し続けることでしょう。


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