舞台・演劇におけるアラウンドステージとは?
舞台・演劇の分野におけるアラウンドステージ(あらうんどすてーじ、Around Stage、Scène centrale)は、舞台を中心にしてその周囲を観客席が取り囲む形式の劇場構造、またはその構造を活かした演出形態を指します。円形劇場(アリーナステージ)や四方舞台(センターステージ)とも呼ばれ、観客と舞台との距離感を限りなく縮め、より臨場感のある演劇体験を実現する空間設計です。
英語では“Around Stage”あるいは“Central Stage”と呼ばれ、フランス語では“Scène centrale”もしくは“Scène circulaire”と表記されます。従来のプロセニアム型(額縁舞台)とは異なり、舞台と観客の境界線が曖昧になるため、演者と観客の関係性を再構築しうる演出空間として、実験的演劇や没入型演劇の場としても活用されています。
アラウンドステージは、古代ギリシャの円形劇場に源流を持つ舞台様式でありながら、現代では演出の自由度の高さと、観客の包囲感・一体感を生かす演出空間として再評価され、多くの現代劇団や劇場で取り入れられています。360度から視線が注がれることによる緊張感と、舞台空間を巡る演出の工夫が求められるため、演者・演出家ともに高度な創造性を要求される形式でもあります。
アラウンドステージの起源と歴史
アラウンドステージの起源は、古代ギリシャの劇場建築にさかのぼります。ギリシャ劇場は円形または半円形の構造で、観客が演者を取り囲むように配置されており、声の届きやすさや自然との調和を重視した設計が特徴でした。ローマ時代にもこの形は継承され、円形闘技場や円形円舞台としてのアプローチがなされました。
しかし、ルネサンス以降、ヨーロッパでは次第に額縁舞台が主流となり、観客は一方向から鑑賞する形に変化しました。これは遠近法を用いた背景画や舞台美術との親和性が高かったためです。20世紀に入り、演劇の「物語性」よりも「体験性」や「空間性」が重視されるようになると、再びアラウンドステージの構造が注目を集めました。
特に1960年代以降の実験演劇運動において、従来の演劇構造に挑戦する演出家たちは、舞台と客席の関係を問い直す手法の一環として、アラウンドステージを取り入れるようになりました。
アラウンドステージの特徴と演出効果
アラウンドステージの最大の特徴は、観客が舞台の四方を取り囲むため、演出・演技・美術のすべてに「360度対応」が求められる点にあります。
従来のプロセニアム形式では、観客が舞台を正面から観ることが前提となっているため、演出上の焦点や視線の流れをコントロールしやすい構造です。しかしアラウンドステージでは、どの方向からも同じ演技を均等に見せる必要があるため、演者は常に背中が誰かに見られている状況下で演技を行わねばなりません。
この構造によって、観客は「舞台を外から眺める」よりも「舞台の中にいるような」臨場感を得られます。観客同士が舞台越しに互いを視認することで、作品に対する「共に体験する者」としての一体感が生まれるのもアラウンドステージの魅力のひとつです。
また、舞台装置や照明も工夫が必要であり、視線を遮らないようなミニマルな舞台美術や、フロアレベルの演出、小道具の扱い方などが演出の肝となります。照明においても、スポットライトだけでなく、全方位照明や環境照明のような工夫が必要になります。
現代演劇とアラウンドステージの応用
現代において、アラウンドステージは特定の劇場の構造だけにとどまらず、ポップアップ形式や野外公演、インスタレーション的演劇などでも活用されており、観客との新しい関係性を築く手段として注目されています。
代表的な劇場構造としては、ロンドンのグローブ座(The Globe Theatre)や、日本では世田谷パブリックシアターなどがアラウンドステージ形式を取り入れた設計を一部採用しています。さらに、空間演出を重視する劇団では、既存の劇場をアラウンド形式に改装して上演する試みも見られます。
また、アラウンドステージは観客とのインタラクションが重要な没入型演劇との相性も良く、体験型演出や即興演劇の現場で頻繁に活用されるようになりました。観客は「観る者」であると同時に「取り囲む者」となり、演劇空間そのものの一部となることで、より深い没入と共感を得ることが可能になります。
教育現場でもこの形式は取り入れられ、観客の集中力を高めるとともに、演者にとっても動線の意識や演技の立体的な展開を学ぶ場として機能しています。
まとめ
アラウンドステージは、観客と舞台の関係性を再構築する劇場形式として、現代の舞台・演劇において重要な演出空間となっています。
その構造は演者・観客の両者にとって新たな挑戦を伴いますが、それゆえに他の舞台形式では得難い臨場感、一体感、没入感を演出することが可能です。今後も、実験演劇や体験型舞台表現が発展する中で、アラウンドステージはその可能性をますます広げていくでしょう。