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舞台・演劇におけるアンカットシーンとは?

美術の分野におけるアンカットシーン(あんかっとしーん、Uncut Scene、Scène non coupée)は、編集やカットが施されていない、そのままの状態で上演されるシーン、あるいは構想段階で存在していたが最終的な公演や映像作品からは除外された未公開シーンを指します。舞台・演劇においては、作品の完全版や再演時の追加演出などで脚本の構造を補足する重要な要素として扱われることがあります。

映像作品における「ディレクターズカット」と近い概念ではありますが、演劇では作品の完成度、脚本の主題、演出家の意図などが絡むため、カットされたかどうかの判断や理由はより複雑です。また、「アンカットシーン」は再演やリーディングイベント、特別企画で復活することもあり、ファンや研究者の間では脚本解釈や演出論を深める対象として注目されています。

英語では ""Uncut Scene""、フランス語では ""Scène non coupée"" と表記されます。映画やテレビドラマだけでなく、現代演劇・実験劇・ミュージカルなど様々なジャンルにおいて使われる用語です。

とりわけ、演劇作品においてアンカットシーンは、制作の過程や演出上の選択が見えてくる貴重な手がかりでもあります。観客にとっては、新しい側面から物語やキャラクターを理解する糸口となり、制作者にとっては再演時の演出改訂や脚本の再検討に役立つ重要な資料でもあります。



アンカットシーンの歴史と由来

「アンカットシーン」という概念の源流は、主に映画編集の分野から派生した用語であり、撮影されたものの編集段階で本編から削除された「未使用映像」を指していました。映像ソフトの特典映像などで紹介される「未公開シーン(Deleted Scene)」や「ディレクターズカット版(Director’s Cut)」において、視聴者が鑑賞できるようになったことがこの語の定着に寄与しています。

一方で、舞台演劇においてこの用語が使われるようになったのは比較的最近のことで、特に脚本の初稿・改訂稿に基づいた研究、もしくは再演時における「再発見されたセリフや場面」の復活などから注目されるようになりました。

たとえば、ウィリアム・シェイクスピアの作品には複数のバージョンが存在し、それぞれの版によってシーンの有無が異なることから、「どのバージョンが正統なのか」という議論が起こる場面もあります。このような文脈において、カットされたシーンの再評価が始まり、「アンカットシーン」という観点が舞台作品でも重要視されるようになりました。

また、1960年代以降のアヴァンギャルド演劇やポストドラマ演劇においては、構造を意図的に破綻させたり、削除や復元を演出の一部とするなど、編集という行為そのものを演劇的装置として用いる作品も見られるようになりました。



アンカットシーンの分類と使われ方

アンカットシーンは、その存在の仕方や復元の目的に応じて、いくつかのカテゴリーに分類することができます。

  • 初演ではカットされたが再演で追加されたシーン
  • 脚本上には存在するが演出上割愛されたシーン
  • リハーサルで試されたが本番では不採用となった部分
  • 本編に収録されなかったが、補足的に朗読劇や映像資料として公開されたもの

たとえば、ミュージカル作品では、試演の段階で観客の反応を見ながらシーンや楽曲の追加・削除が行われることが多く、「ナンバーごとカットされた曲」や「途中で削除された場面」が後にファン向けイベントなどで復活し、「アンカットシーン」として取り上げられることがあります。

また、ドキュメンタリー形式の演劇では、取材中に記録されたが本編では扱われなかった会話や証言を、アフタートークや別企画で取り上げ、「アンカットシーン」として見せることもあります。こうした取り組みは、作品世界の奥行きを広げると同時に、創作の背景を共有する方法でもあります。



演劇作品におけるアンカットシーンの意義と可能性

演劇において「アンカットシーン」を明示的に提示することは、物語の多面性や未完成性を観客と共有する手段として有効です

たとえば、「本来はカットされていたセリフ」や「省略されたキャラクターの内面描写」を追加することで、観客が主人公に対する理解を深めたり、物語の背景にある社会的文脈を知るきっかけとなることがあります。これは特に社会派演劇や歴史劇、心理劇において顕著です。

また、教育現場や演劇ワークショップでは、アンカットシーンを取り上げて「なぜこのシーンが削除されたのか」を議論することによって、演出の目的や脚本の構造を読み解く訓練にもつながります。演技の教材としても、本編では触れられない感情や関係性を演じる機会として活用されることがあります。

さらに近年では、AR/VR技術を使って、観客が自由にアンカットシーンを探索できる「マルチパス型演劇」や「インタラクティブ演劇」にも応用が進んでおり、デジタル技術との融合によってその可能性は大きく広がっています。



まとめ

アンカットシーンは、舞台・演劇の中で物語の深層や演出の意図を理解するための貴重な補完的要素です。

一度は削除された場面が、再演や演出改訂によって復活することで、作品の解釈が豊かになり、観客の体験にも新たな視点が加わります。今後、デジタル演劇の発展とともに、アンカットシーンは「見えなかった物語」を可視化する技術的・芸術的な挑戦の場として、ますます注目されることでしょう。


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