ビジプリ > 舞台・演劇用語辞典 > 【インカムパフォーマンス】

舞台・演劇におけるインカムパフォーマンスとは?

美術の分野におけるインカムパフォーマンス(いんかむぱふぉーまんす、Income Performance、Performance avec système d’intercommunication)は、主に舞台・演劇において、舞台上のパフォーマーや裏方スタッフがインターカム(無線通信機器)を通じてコミュニケーションを取りながら行う演出形式を指します。

本来「インカム(intercom)」は通信機器を意味し、舞台裏でのスタッフ同士の連絡用に使用されることが一般的でしたが、インカムパフォーマンスという語は、舞台上でこの通信技術を演出の一部として積極的に取り入れる表現手法を指す言葉としても用いられるようになってきました。

例えば、演者がヘッドセットを着用したまま舞台に登場し、舞台裏の指示や音声が観客にも可聴化されるような演出、あるいは通信そのものを作品のテーマや構成に組み込んだ表現などが、近年の舞台芸術において注目されています。

英語では「Income Performance」よりも「Intercom-Based Performance」「Intercom-Theatre」の方が一般的に使用されることが多く、仏語では「Performance avec intercom」または「Théâtre par intercommunication」と表現されます。

このように、技術とパフォーマンスの融合が進む現代演劇において、インカムは単なる道具ではなく、演劇表現を拡張するための“メディア”とも言える存在になりつつあります。



インカムパフォーマンスの歴史と背景

インカムの技術自体は、1970年代頃から劇場設備として普及しました。当初は、照明オペレーター、音響、舞台監督、袖幕のスタッフが舞台進行を円滑に行うための裏方通信手段として使用されていました。

しかし、1980年代後半から1990年代にかけての現代演劇の実験的潮流、特にメディアアートやパフォーマンスアートの影響を受けて、次第に「通信」というテーマ自体が演出に取り入れられるようになります。

こうした試みの背景には、人間関係における断絶・接続、可視/不可視の境界を扱う現代演劇の問題意識がありました。とくに、ポストドラマ演劇の影響下では、「セリフ」や「動き」だけでなく、「音声のやりとり」自体をドラマの構成要素として扱うことで、舞台と観客、演者同士の関係をよりダイナミックに描く表現が求められました。

近年では、インカムを装着した演者が、リアルタイムで指示を受けながら即興的に動くパフォーマンスや、観客とのコミュニケーションを「通信のズレやノイズ」込みで演出する手法も登場し、舞台芸術に新たな地平を切り開いています。



インカムパフォーマンスの技術的特徴と演出手法

インカムパフォーマンスには、以下のような技術的要素と演出上の工夫が見られます。

1. 可聴化された舞台裏の声
通常、観客には聞こえない舞台監督の「カウント」や「キュー出し」の声を、意図的に会場に流すことで、舞台裏と表の境界をあいまいにする演出が可能になります。観客は、作品の進行プロセスそのものを“劇的素材”として体験することができます。

2. 複数の音声層の演出
インカムを通じて舞台裏の声を受け取りながら、俳優が観客に向かってセリフを発する場合、「指示の声」と「俳優の声」の二重性が浮かび上がります。この手法は、演者の“自律と他律”の間を浮かび上がらせる効果を持ち、観客にとって非常に刺激的な構造を生み出します。

3. 即興性とインタラクティブ性の拡張
指示がリアルタイムで変化する構造は、即興演劇やゲーム的演出と相性がよく、演者が常に予期しない展開に対応する姿がそのまま演劇のスリルとなります。また、観客がスマートフォンなどを通じてインカムの指示系統に介入するような、観客参加型の作品も出現しています。



インカムパフォーマンスの現在と展望

インカムパフォーマンスは、単なるテクニックにとどまらず、舞台における「制御」と「自由」の関係性を問う方法として発展してきました。

たとえば、指示がなければ動けない演者の姿は、現代社会の情報過多や管理社会を暗示するメタファーとも受け取られます。一方で、指示を柔軟に受け入れながらも独自のパフォーマンスを展開する演者の姿には、人間の創造性や即応力が象徴されるとも言えるでしょう。

また、現代では、ワイヤレス・インカム技術の進化により、より広範な空間でのパフォーマンスが可能になりました。劇場を飛び出して街中で行われるサイトスペシフィック演劇や、遠隔地をつなぐテレプレゼンス型の舞台作品においても、インカムは重要な役割を担っています。

さらに、AI技術の進歩によって、演者に対してAIがリアルタイムで指示を与えるような、より実験的なパフォーマンスも登場しつつあります。こうした未来型演劇において、インカムパフォーマンスの可能性はますます広がっていくことでしょう。



まとめ

インカムパフォーマンスとは、通信技術であるインカムを演劇表現の一部として取り入れた舞台芸術の演出手法です。

それは単に技術的な補助機器ではなく、舞台上の出来事と観客の認知との関係を再構成する“メディア演出”であり、即興性、可聴性、指示系統、参加型表現など、様々な要素を融合させた革新的なアプローチです。

今後、テクノロジーとパフォーマンスの関係性が深まるなかで、インカムパフォーマンスはより多様な形を取りながら、演劇の表現可能性を拡張していくことが期待されています。


▶舞台・演劇用語辞典TOPへ戻る



↑ページの上部へ戻る

ビジプリの印刷商品

ビジプリの関連サービス