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舞台・演劇におけるインストールパフォーマンスとは?

美術の分野におけるインストールパフォーマンス(いんすとーるぱふぉーまんす、Install Performance、Performance d’installation)は、舞台芸術や現代美術において、空間に「設置」されたインスタレーションと、時間軸に沿って展開されるパフォーマンスを融合させた芸術表現の形式を指します。

この用語は「インストール(install)」=設置、「パフォーマンス(performance)」=上演・実演という二つの概念から成り立ちます。つまり、観客が自由に移動したり体験したりする空間を含みつつ、俳優やパフォーマーが演じる要素が組み込まれた舞台芸術であり、単なる「展示」でもなければ、「演劇」や「ダンス」とも一線を画す、インタラクティブで現代的な形式といえます。

仏語では「Installation scénique(アンスタラシオン・セニック)」や「Performance immersive(パフォルマンス・イメルシーヴ)」とも訳されることがあり、視覚芸術と舞台芸術の中間領域で多用されています。

特に21世紀以降、劇場に限らず美術館や廃工場、屋外広場などでも活用されるようになったこの形式は、観客が作品の中に“存在”しながら体験するという没入型の特徴を持ち、多様な演出手法やメディアとの結びつきの中で進化を続けています。



インストールパフォーマンスの歴史と概念の形成

インストールパフォーマンスという概念は、1960〜70年代のアヴァンギャルド芸術やパフォーマンスアートの潮流と密接に関係しています。特に、アラン・カプローによる「ハプニング」や、ヨーゼフ・ボイスによる空間を巻き込んだ身体表現は、演劇や美術の境界線を曖昧にし、今日のインストールパフォーマンスの原型となりました。

1980年代以降、美術館でのパフォーマンスが増えたことや、コンテンポラリーダンスの分野で空間を活用した演出が多くなったことにより、「観客と空間との関係性」が再定義されていきます。この時期、欧米では「site-specific performance(サイト・スペシフィック・パフォーマンス)」という用語が登場し、特定の場所に意味づけされたパフォーマンスが流行し始めました。

やがて2000年代に入り、テクノロジーの発展とともに映像・音響・インタラクティブアートと結びついたパフォーマンスが主流となり、観客が単に「見る」側ではなく、作品に巻き込まれる存在として設定される演出が一般的になりました。こうした文脈の中で、「インストールパフォーマンス」という呼称が定着していきます。

この形式は、舞台美術や空間演出といった演劇的要素だけでなく、現代アートのインスタレーション技法とも融合しており、ジャンル横断的な作品制作を可能にします。



現在の使われ方と演出方法の多様性

インストールパフォーマンスの実践は、伝統的な演劇公演とは異なり、柔軟な空間設計や観客とのインタラクションを前提としています。たとえば次のような形態が存在します。

1. 動線型パフォーマンス
観客が指定されたルートを歩く中で、各所に設置された演出や演技を体験します。これは美術館や廃墟、野外施設などでよく見られます。

2. 滞在型パフォーマンス
観客が自由に空間内を移動し、好きな場所・時間でパフォーマンスの断片を鑑賞する形式。複数のアクターが同時に異なる場所で演技を行うこともあります。

3. テクノロジーとの融合
プロジェクションマッピング、モーションセンサー、AR/VR技術などを用いることで、現実と仮想空間が交錯した表現が可能になります。

4. ソーシャル・インストールパフォーマンス
参加者の身体や発言、選択が作品の進行に影響を与える形式。社会問題や記憶の再構築をテーマにすることが多く、教育的な意味合いも含まれます。

また、物語の構造そのものが解体されることもあり、観客は結末のない「空間体験」としてパフォーマンスを受け取ることになります。このように、身体性・空間性・観客性が同時に問われる表現であるため、制作者側にも高い創造性と企画力が要求されます。



舞台芸術とインストールパフォーマンスの関係性

現代の舞台芸術において、インストールパフォーマンスはもはや一過性の表現形式ではなく、既存の演劇構造を再考するための方法論として注目されています。特に、下記のような意義が挙げられます。

1. 観客の能動性
従来の観客は「見るだけ」でしたが、インストールパフォーマンスでは、観客が動く、関与する、反応することで初めて作品が成立します。つまり観客自身が作品の一部になるのです。

2. 空間の再定義
劇場という枠を超えた場所——たとえば商業施設、街路、公園、廃工場など——に演劇的要素を持ち込むことで、都市空間そのものが舞台となるという新たな試みが可能になります。

3. 社会的・政治的テーマの具現化
移民、障害者、ジェンダー、環境問題など、観客の身体を通じて間接的に「体験」させることで、共感や理解を深める手段として機能します。

4. 他ジャンルとの融合
現代音楽、ダンス、メディアアート、テクノロジーなどと統合されやすく、横断的・学際的なコラボレーションが活発に行われています。



まとめ

インストールパフォーマンスとは、空間を設置型インスタレーションとして構成し、その中で身体的・演劇的パフォーマンスを展開する舞台芸術の一形態です。

観客との関係性、空間の意味、そして演技の時間軸などを再定義しながら進化を続けており、現代舞台芸術の新たな地平を開く重要な表現形式として、世界各地で注目されています。

今後も、テクノロジーとの連携や社会的テーマの表現において、この形式の持つ可能性は広がり続けていくことでしょう。


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