ビジプリ > 舞台・演劇用語辞典 > 【インターアクティブボイス】

舞台・演劇におけるインターアクティブボイスとは?

美術の分野におけるインターアクティブボイス(いんたーあくてぃぶぼいす、Interactive Voice、Voix interactive)は、音声を媒介とした相互作用型の舞台演出手法を指し、観客や演者、さらにはテクノロジーとの“声”による対話を通して、舞台空間に動的な変化や演出効果をもたらす表現技術です。

英語表記では “Interactive Voice”、フランス語では “Voix interactive” と書かれます。直訳すれば「対話的な声」あるいは「相互作用する音声」となりますが、舞台芸術の文脈においては、単なる声の使用にとどまらず、音声がインターフェースとなって演出を構築・変容させる機能を含意しています。

舞台・演劇におけるインターアクティブボイスは、演出家や俳優の声だけでなく、観客の声、録音された音声、人工知能による音声認識・応答、音響効果装置といったテクノロジーとの連動までを含む、拡張された「声」の概念を前提としています。

特に近年は、AIやセンサー技術の進展により、音声を通じたリアルタイムのインタラクションが可能となり、観客の声が舞台装置を動かす、台詞の抑揚に応じて照明や音楽が変化するなど、音声によるライブ制御を活用した舞台演出が注目を集めています。

このような試みは、舞台芸術の中での「声」のあり方を再考させるとともに、演劇の形式を刷新し、観客参加型の新たな演出スタイルとして展開されています。



インターアクティブボイスの起源と進化

「声」をインターフェースとして扱うという発想は、20世紀初頭から実験的演劇やサウンドアートの文脈で見られ始めました。特に、アントナン・アルトーが提唱した「身体から発せられる音としての声」や、ヨーゼフ・ボイスによる「音声的エネルギーとしての言葉の拡張」が、後のインターアクティブな音声演出の概念的な起点とされています。

その後、1980年代にはメディアアートやコンピュータ音響技術の発達により、音声入力に反応する装置やソフトウェアが登場し、視覚・触覚的インタラクションと並ぶ新たな「音声による演出」の可能性が探究されるようになります。

舞台芸術の文脈では、2000年代以降、ライブエレクトロニクスやセンサー付きのマイクロフォン、音声認識AIなどの技術が進化し、俳優や観客の声に即座に反応して舞台空間が変容するという演出手法が確立されていきました。

特にポストドラマ演劇やイマーシブシアターの系譜では、「観客の声が物語を動かす」「演者とAIが声で対話する」といった構造が試みられ、声=指示、声=感情、声=存在証明としての意味が多層化してきています。



インターアクティブボイスの技術と演出手法

インターアクティブボイスの導入には、テクノロジーと演出構造の両立が重要です。以下はその主要な技術要素および演出スタイルです。

  • 音声認識システム:観客や俳優の声をリアルタイムで解析し、特定のワードやトーンに反応して照明や音楽を変化させる。
  • 対話型AI:舞台上のキャラクターがAIを通じて観客と会話し、物語が分岐・変容する。
  • 声による操作:俳優の発声に応じて舞台美術や映像が変わるなど、音声が舞台空間のスイッチとなる。
  • 反復録音(ループボイス):声を録音し、場面ごとに再生・重ね合わせて新たな音響構造を作る。
  • 観客参加型の声:観客の掛け声や質問が物語の進行に影響を与える「対話型演劇」スタイル。

これらの演出は、従来の舞台装置や演出法と大きく異なり、声=空間操作のトリガーとしての機能を担います。とくに俳優にとっては、台詞そのものが視覚・聴覚・空間に影響を及ぼす行為となり、発話の意味だけでなく、その声質・速度・音高までもが演出素材として扱われるようになります。

また、観客にとっても、自らの声が作品の一部となることで、能動的な舞台体験=体感的ドラマ構築が可能となります。演劇とテクノロジー、感覚と空間がシームレスに統合された空間を実現する手法として注目されています。



現在の応用と将来的展望

インターアクティブボイスは、以下のような分野・舞台形式で広く活用されつつあります:

  • イマーシブシアター(没入型演劇)
  • メディアアート×演劇のハイブリッド作品
  • 教育演劇における感情表現訓練
  • セラピーやリハビリテーションにおける感覚刺激ツール
  • デジタルシアター/リモート演劇(Zoom演劇など)

また、今後は以下のような技術との融合が見込まれています:

  • AIによる自然言語解析の高度化:演者・観客の声に含まれる感情や意図を理解し、より複雑な演出に応用。
  • VR/AR空間での音声制御:仮想空間における声による移動・変容・物語展開。
  • ウェアラブルマイク・バイオセンサーとの連動:声+心拍や筋肉反応など複数の生体情報を用いた演出。

こうした進化の中で、インターアクティブボイスは、身体性とテクノロジーの接点としての“声”を媒介とする、今後の舞台表現の重要なキーワードとなっていくでしょう。

ただし、あくまでも演出の道具であり、観客や俳優の“生の声”が持つ意味・感情・文脈を損なうことなく、演劇の本質的な「伝達」と「共鳴」の仕組みを支える技術として扱われることが求められます。



まとめ

インターアクティブボイスとは、声を媒介とする相互作用的な演出技法であり、演者・観客・テクノロジーが“声”によって舞台空間を変容させていく新たな演劇表現のかたちです。

その可能性は、即興性のあるパフォーマンスから高度なテクノロジー演出まで多岐にわたり、舞台芸術の体験価値を高める重要な手段となっています。

今後も音声解析やAIとの融合が進むなかで、インターアクティブボイスは、演劇における「声の意味」そのものを再定義し、観客と演者が共に創りあげるインタラクティブな空間表現を牽引する中心的要素となるでしょう。


▶舞台・演劇用語辞典TOPへ戻る



↑ページの上部へ戻る

ビジプリの印刷商品

ビジプリの関連サービス