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舞台・演劇におけるインタラクティブシアターとは?

美術の分野におけるインタラクティブシアター(いんたらくてぃぶしあたー、Interactive Theatre、Théâtre interactif)は、観客が舞台上の物語に対して何らかの影響を与えることができる、参加型・対話型の演劇スタイルを指します。従来の舞台芸術が持つ一方向的な関係性、すなわち「演者が演じ、観客が観る」という構図から離れ、観客もまた物語の一部、あるいは創造的要素の一端を担う構造へと発展したものです。

「インタラクティブ」とは「相互に作用する」「双方向の」という意味を持ち、「シアター」は舞台芸術や演劇全般を示します。フランス語では「Théâtre interactif」と訳され、教育的・社会的文脈でも用いられることが多く、単なる娯楽にとどまらず、社会課題への気づきや対話を促すメソッドとしても注目されています。

インタラクティブシアターは、その形式によって「観客が役を演じる」「選択肢を提示される」「会話に参加する」など、多様な関与スタイルを持ちます。これにより、舞台作品の解釈や展開が一元的ではなく、個別性や即興性を含むダイナミックな演出が可能となります。

近年では、VR(仮想現実)やAR(拡張現実)を利用したバーチャルシアター、オンライン上でのマルチエンディング演劇など、テクノロジーと融合したインタラクティブシアターの試みも増加しています。このような動向は、観客の能動性を高め、舞台芸術の新たな可能性を切り開くものとして高く評価されています。



インタラクティブシアターの歴史と背景

インタラクティブシアターのルーツは、20世紀初頭にさかのぼります。特に注目すべきは、ブラジルの演出家アウグスト・ボアールが提唱した「フォーラムシアター」です。これは、観客が舞台上の不正義な状況に対して介入し、物語の流れを変えることを目的とした形式で、教育・社会運動・コミュニティ支援などの現場で活用されてきました。

1960~70年代の実験演劇の潮流では、アヴァンギャルド演劇の一環として、観客との境界を壊す演出が多く試みられました。アメリカの「リビング・シアター」やヨーロッパの「環境演劇」がこの傾向を代表します。観客が客席を離れ、舞台内を自由に歩いたり、登場人物と直接会話したりすることで、リアリティのある舞台体験が生まれたのです。

現代においては、1990年代以降のIT技術の発達とともに、「デジタルインタラクティブシアター」と呼ばれる領域が拡大。観客がタブレットやスマートフォンを用いて演出に影響を与える仕組みや、オンライン上での複数ルート展開が可能な物語構成が実現されるようになりました。



インタラクティブシアターの演出と特徴

インタラクティブシアターは、その設計において「観客の選択や行動によって内容が変化する」という構造を持ちます。以下のような演出形式が多く見られます:

  • 選択型シナリオ:観客が提示された選択肢から1つを選び、それによって物語が分岐していく形式。
  • 対話参加型:登場人物との会話を通じて、観客が物語に干渉できる。
  • 自由移動形式:観客が会場内を自由に移動し、複数の視点から物語を追う。
  • 反応型演出:観客の拍手や声、リアクションに応じて展開が変化する。

こうした手法は、演者に高い即興力と観察力を要求する一方で、観客にも「参加する勇気」を求めます。特に日本においては、観客が舞台へ積極的に関わる文化的習慣が欧米ほど根付いていない面もあり、この点をどう演出に落とし込むかが重要な課題となります。

また、テクノロジーを活用した舞台では、プロジェクションマッピング、センサー連動の照明、音響といったマルチメディア演出を取り入れることで、観客の動きや反応に応じた視覚的・聴覚的効果を付加し、より強い没入感を生み出します。



教育・社会・ビジネス領域での応用

インタラクティブシアターはエンターテインメントの領域を超え、教育や企業研修、社会啓発などの分野にも広く応用されています。たとえば:

  • いじめや差別をテーマとした教育演劇:観客である生徒が問題の当事者として行動を選び、学びを得る。
  • 企業のコンプライアンス研修:実際の業務を模したシナリオで、従業員が判断力や倫理観を高める。
  • 地域住民との対話促進:災害対策、街づくりなどをテーマに、住民参加型演劇で意見交換を行う。

このように、インタラクティブシアターは「人の立場や価値観を想像する」という力を育むツールとして、多様な現場で有効に活用されています。

一方で、運営側には高度なファシリテーション技術や演出管理能力が求められるため、持続的な教育体制やトレーニング環境の整備が今後の課題となります。



まとめ

インタラクティブシアターは、観客の参加を通じて物語を共創する新しい演劇スタイルであり、現代社会におけるコミュニケーションと共感の力を引き出す媒体として注目されています。

従来の演劇の枠組みを超え、教育、ビジネス、社会活動など多様なフィールドでの活用が進む中、今後も技術との融合や新しい表現方法の模索を通じて、さらに多様な可能性を広げていくことが期待されます。


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