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舞台・演劇におけるインフラレッドシアターとは?

美術の分野におけるインフラレッドシアター(いんふられっどしあたー、Infrared Theatre、Théâtre Infrarouge)とは、舞台芸術や演劇の現場において、主に視覚障害者を含む観客へのアクセシビリティ向上を目的とした、赤外線(インフラレッド)送信システムを利用した補助音声ガイド付き上演を指す概念です。

赤外線による音声送信技術は、劇場空間での個別通信を実現し、観客が携帯型レシーバーを使用することでナレーションや解説、字幕読み上げなどのサービスを受けられるようにします。これにより、視覚的な情報を得にくい観客にも演出意図や物語展開を正確に伝えることが可能になります。

このシステムは、アクセシビリティという社会的価値の中核に位置しており、視覚障害者のみならず、外国語話者や高齢者に向けたユニバーサルな観劇体験を提供する手段としても注目を集めています。

その活用は日本国内でも徐々に進んでおり、公共劇場や国際演劇フェスティバル、教育現場においても導入が広がりつつあります。舞台と観客との間にある情報格差を技術的に補うことで、文化芸術の享受機会を平等にする重要な手段とされています。

本記事では、「インフラレッドシアター」の定義、歴史的背景、現在の利用実態、そして今後の展望に至るまで、包括的に解説していきます。



インフラレッドシアターの起源と技術的背景

「インフラレッド(Infrared)」とは、赤外線領域の電磁波のことを指し、主に無線通信やリモコン機能などに利用される技術です。この赤外線技術を劇場に応用し、観客に対して無線で補助音声を送る仕組みが開発されたのは20世紀後半の欧米におけるアクセシビリティ技術の発展によるものでした。

視覚障害者や視力の弱い人々は、視覚に依存する舞台演出の情報を得ることが困難でした。そこで登場したのが音声ガイド付き観劇(Audio Description)です。これは演者の動作、舞台装置、衣装の変化、光の演出などをリアルタイムでナレーションするサービスであり、赤外線によって個別に観客へ送信されます。

初期にはFMラジオを活用した方式が主流でしたが、赤外線通信技術の導入により、他の無線通信との干渉を受けにくく、特定の座席範囲への指向性送信が可能となり、劇場空間での精密な運用が実現しました。



舞台・演劇における活用と効果

日本においては、1990年代から一部の公立劇場や大学付属劇場がインフラレッドシアターを導入し、障害者差別解消法の施行(2016年)をきっかけに、その普及が加速しました。国立劇場、新国立劇場、京都芸術劇場などでは、視覚障害者向けのガイド付き公演が定期的に実施されています。

インフラレッドシアターは、観客の自主性を尊重しつつも、情報提供を過不足なく行う点が特徴です。レシーバーを耳に装着することで、必要な情報だけを補足的に得られ、臨場感を損なうことなく演劇体験を補完できます。

また、赤外線の特性上、電波法の制約を受けにくく、同一会場で複数の音声チャンネルを提供できるため、外国語ナレーションや字幕読み上げといった多言語対応も可能です。これにより国際公演や教育演劇、地域交流型シアターにおいても高い活用価値が見出されています。

この技術はまた、舞台芸術のインクルーシブ化(包括的社会参加)における象徴的ツールともなり、ユネスコや国連障害者権利委員会でもその普及と継続性が推奨されています。



今後の展望と課題

インフラレッドシアターの普及には、技術面・経済面・人材面のいくつかの課題も存在します。まず第一に、赤外線送信機・レシーバーの設置には一定の初期投資が必要であり、中小規模劇場での導入が進みにくい現状があります。

また、音声ガイドの作成には脚本理解力と舞台演出に対する知識を兼ね備えたナレーター・ディスクリプターが必要であり、人材育成も重要なテーマです。現在、日本ではこの専門職の研修制度が整いつつあり、大学や演劇教育機関と連携した育成事業が進行中です。

将来的には、赤外線に限らずBluetoothやWi-Fi通信を活用したスマートフォン連動型の補助技術の開発も進んでおり、テクノロジーの進化とともに、観劇体験のパーソナライズが加速していくと考えられます。

それでも、現在の技術的信頼性や操作のシンプルさから、インフラレッドシアターは、アクセシブルな演劇鑑賞のスタンダードとして今後も重要な役割を担っていくことでしょう。



まとめ

インフラレッドシアターとは、赤外線通信を利用した補助音声システムを導入することで、視覚障害者や外国語話者など、多様な観客に向けた情報提供を可能にする舞台芸術の技術的実践です。

その導入は劇場のバリアフリー化を推進し、ユニバーサルデザインの理念と共に文化の民主化を支えるものとして高く評価されています。今後も技術革新と制度的支援のもと、さらに多くの現場でこの取り組みが広がっていくことが期待されます。


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